耐震性、耐久性を求めたシンプル構造
柱や梁が3階まで組み上げられ、建物全体の骨格が姿を現し、
(1)健康建築 (2)耐久性・耐震性 (3)循環型社会に貢献、
という新事務所のコンセプトが見えるようになりました。
●300年もつ基礎と躯体
新事務所のメイン建築士・相根昭典さんは、化学物質によるシックハウスが社会問題化したころから、注目を集めているエコ建築の第一人者です。天然素材を採用し、化学物質を排してセンスのいい健康住宅を数多く手がけてきました。
国産の木材を使用して気候風土に合った建物をつくり、それを施工できるプロの育成や、林業の保護にも貢献する活動も行なっています。
ただ、シックハウス対策が注目されるあまり、相根さんの徹底した耐震設計に目を向ける人は少なかったのです。
「建築家としての出発点から耐震性は最重要視してきました」と相根さんは言います。
阪神大震災の直後、現地に入った相根さんは、倒壊した建物を見ながら、自分の考えを進化させることを決意しました。
前号で紹介した新事務所の基礎は、他の現場の職人さんが見ると、「5階建ての鉄骨ビルが建つのか」と言うほどのレベル。基礎は300年以上もつ設計です。
建物の内側は木造ですが、やはり300年持つことを目差しています。
外壁は金属板で包んだ建築になりますが、「外壁は100年ごとに補修が必要」と相根さんは話しています。
鉄筋コンクリート建築の減価償却は60年とされているので、新事務所の耐久性はその上をいくことになります。
木材とコンクリートの間は2cm強の隙間がある。これで風通しがよくなる。これもステンレス製
●2cmの隙間で通気性は抜群
この木造建築を長持ちさせるノウハウは、コンクリートの強固な基礎に、桧の土台を乗せるステンレス製の特製金具です。
プラスチックやゴム系の素材にすると、寿命は50年。それに対して少なくとも150年以上はもつ仕様で、役所の担当者が構造金具の性能に驚いていたそうです。
この金具を、桧の土台に取り付けて、コンクリートの基礎にセットすると、両者の間に2cmの隙間ができます。
かつては、木造建築はコンクリートと木材の土台を密着して、基礎の数ヵ所に通気口を空けて床下に風を送り込むのが主流でした。しかし、それでは通風口付近のコンクリート基礎に亀裂が入りやすく、風通しも通風口の近くに限られていました。
新事務所は、東西南北すべての土台の下に連続して2cmの空間ができ、風の通り道となって、床下に湿気がたまりにくい設計になっています。
「風の通る家」が建築士・相根昭典さんが重要視する大切なポイントです。
木が水分を吸収したり放出したりできる状態を保ち、腐らないようにするために、土台の桧もできるだけ外気に触れるようにしています。
●無垢の木は雨に耐えられる
上棟式当日の関東地方は、朝から本降りの雨。その中で柱を組み立てる作業が行われました。昼過ぎに雨が上がると、2時間後には、柱の表面が乾きはじめました。
集成材を土台に使っていると、強い雨が降れば、ビニールなどで完全に保護していないと反って使い物にならなくなります。だから、普通は作業できません。そこが、集成材と無垢の木の大きな違いです。
材木はすべて国産材で、しかも、できるだけ地元に近い地域の素材を使うようにしました。土台の桧は群馬県の下仁田産。そうでなくとも衰退する日本の林業を少しでも支えたいという意図からです。
また、木造の伝統的な工法も採用して建てることで、職人を育てることにもつながります。今のままでは、10年か15年もすると、ほんとうに職人がいなくなってしまいます。
1階から3階までまっすぐの柱。このような構造だと垂直加重に強くなる。
●垂直加重に強い木材
設計に関する小若編集長の要望は、「合理的に」。四角いシンプルな構造にしたのは耐震性に優れているからです。
下から見上げると、1階から3階の屋根まで柱が一直線に伸びています。階の変わり目でずれていません。
「良質な木材をシンプルに組み合わせると、垂直加重に対する強度がコンクリートよりも強い」と相根さん。
柱はすべて杉で、主要な17本は15cm角の5寸柱です。ふつうは10.5cm角の3.5寸柱なので、断面積は2倍以上あります。
ですから、伝統工法で穴を開けて柱を組んでも、耐震性、耐久性が十分にあります。目に見えるようになった新事務所の外形は、このような考えに裏打ちされているのです。
林克明(ライター)
2007年5月1日発行 No.217より