食品と暮らしの安全基金代表 小若順一
本誌では毎月、新しい話題を取り上げます。
できるだけシロクロがはっきりしている話題を選ぶようにしていますが、現実には、ほとんどのケースに灰色領域があり、その部分の意見を書くのは大変です。
灰色領域を考えるときは、「自然の原則」に合っているかどうかがポイントになると私は考えています。
自然の原則には数限りなく視点があるので、BSEを例に挙げて、私の考えがどう変遷したかをお知らせします。
2001年3月、「狂牛病」と呼ばれていたBSEを非常に怖いと思って、イギリスへ取材に行きました。
イギリスではすでに牛の肉骨粉を焼却していて、BSEは激減中だったので、牛への対策ではなく、牛から人への感染を防ぐ方法を知ることが話題でした。
ところが、ロンドンのレストランでは、みんな気にしていないかのように牛肉を食べていて、食肉市場では、羊の頭が箱に入れられてたくさん売られていました。市場の販売員は、羊の頭を持ってスタッフと記念撮影してみせたのです。
おそらく、羊の頭は一歳未満のものなのでBSEのリスクはなかったのでしょう。
しかし、私たちは羊の危険部位が売られていたことにショックを受けました。現地の人に聞くと、イギリスにはもともと危険部位を使う料理があったというのです。
危険部位を食べる国で、20万頭もの牛がBSEに感染していたというのに、当時、人に感染していたのは100人足らず。 それなら危険部位を食べない日本でBSEが発生しても、1頭の時点でイギリスと同等の対策を取れば、BSEに人が感染することはないと思いました。
帰国後、BSEのようなプリオン病は自然界にもあることを重視するようになりました。年をとると、クロイツフェルトヤコブ病にかかる人が出てくるように、牛も年をとれば一定割合でBSEが発生していたはず。それでも、人は牛を食べながら、牛を共存してきたのです。
「牛の病気は人に感染しにくい」上に、牛(他の家畜や魚も含めて)の「病巣を食べない」という人の感性が、感染を防いできた自然の原則だと私は思いました。それが制度として実現できれば、問題はなくなるわけです。
その後、日本とアメリカでBSEが発生し、改善策がとられました。
今、アメリカ牛が問題になっているのは、ルール違反をしたこと。これは、検査の厳密化という社会問題として 片付ける課題と考えています。
日本人にプリオン病のリスクがあるのは、人から人への感染です。輸血や脳の手術などの医療では、明らかなリスクを抱えています。この医療リスクを記事にしているのですが、マスコミは注目せず、改善は、遅々として進んでいません。
次回は、全面否定について書きます。
2006年4月1日発行 No.204より