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月刊誌『食品と暮らしの安全』2013年5月号No289では、中国で発生した鳥インフルエンザに対し、
今のところ冷静に、「心配せずに対策を」と寺澤政彦医師の記事を掲載しましたが、
2009年6月号に掲載の「新型インフルエンザへの備えと対策」が、とても参考になります。
そこで、全文ご紹介します。


寺澤政彦医師にインタビュー(2009年6月)

新型インフルエンザへの備えと対策

2009年4月下旬、豚から思いもかけない新型インフルエンザが発生したことが判明し、
WHOは警戒度をフェーズ5 まで引き上げ、世界が警戒態勢に入りました。
ところが、恐れていたほどの被害は出なくて、弱毒性とわかりました。
国内で流行を始めたので、どう備えるかを、寺澤政彦医師に伺いました。

寺澤政彦医師(仙台・てらさわ小児科)
月刊誌『食品と暮らしの安全』に「医者が言わないことU」を連載中。
著書に『抗生物質で子どもの病気が治せない』(リヨン者)


聞き手:月刊誌『食品と暮らしの安全』小若順一編集長



小若  豚から新型インフルエンザが発生、と判明した当初は、 メキシコでの感染者が1614人、死者が103人と報道され、WHOは緊急委員会を開いて、フェーズ5まで警戒度を引き上げたので、この頃は私も非常に心配しました。
ところが、それから死亡者数が下がったので、現在は、通常のインフルエンザと同等で、注意度も同等でいいと見ています。先生はどう考えてこられましたか。

寺澤  実は、かつての「スペイン風邪」も、アメリカ・メキシコの地域から始まった新型インフルエンザです。 「スペイン」と名前がついているのは、第一次世界大戦でアメリカ軍の兵士がヨーロッパ戦線に持ち込んで、スペインから広がったからといわれていて、 また同じ地域から始まったのかと思いましたね。
 そのスペイン風邪も、当初は弱毒型で、いったん消え、毒性が強まって、秋から再び広がっていきました。
 今回も、すぐにメキシコの死者数は減りましたね。医者がいたかどうかわからない地域で始まりましたから、他の病気での死者まで統計に入ったのかもしれません。
 現在は、「H1N1」の弱毒型とわかったので、検査も、治療もできます。だから、このウイルスが日本に入ってきましたが、死者は出ないと思っています。

小若  WHOが「インフルエンザA型」(以下、「新型A」)と命名したウイルスは、どの程度怖いものなのでしょうか?

寺澤  日本は栄養状態が良くて、治療もできるので、人が死ぬことはほとんどないでしょう。 SARS(サーズ)でも、日本人の死亡者はいなかったのですから。
流行しても先進国は死者が少ないのですが、途上国は多くの人が亡くなると予想されるので、それが心配です。

●若者は死亡のリスクが高い

寺澤  インフルエンザが動物から人に感染を始めた初期は、下痢・腹痛などの消化器の症状が激しいのが普通です。 それが、人から人にうつっていくと呼吸器の症状が強くなり、肺炎で死亡するようになります。
今回の新型インフルエンザAも、下痢・おう吐などの消化器の症状が多いようですから、今、ウイルスが目の前で変わっているところなのです。

小若  アメリカの感染者は、6割が18歳以下と報道されていますね。

寺澤  スペイン風邪もAソ連型もA香港型も、新型が流行るときは、いつも若者が多く死亡しました。 インドネシアで鳥インフルエンザが人に感染したときも、35歳以上の方はほとんど亡くなっていません。 4歳から35歳ぐらいまでが、死亡するリスクが高いのです。
 インフルエンザに感染すると、ウイルスを攻撃するためにリンパ球が多種の「サイトカイン」をつくります。 それが、過剰になると、体中を回って自分自身を攻撃し、気道閉塞や多臓器不全を引き起こします。脳が攻撃されると、けいれん、意識障害、異常行動を起こします。 だから、免疫系の活発な若くて健康な人のほうが、症状が重くなって死亡しやすいのです。

●ワクチンが間に合うか

小若  40歳代以降の人は気をつけなくてもいいというわけではありませんよね。

寺澤  もちろんです。すぐ死に至る危険性が少ないというだけのことで、かかれば体への負担が大きいですから、 インフルエンザで死に至らなくても、それをきっかけに他の病気が重病化する危険性があります。
 糖尿病や高血圧、肺気腫などの病気を持っていれば、重症化しやすくなります。
高齢者の場合、インフルエンザで死ななくても、体力が落ちて細菌性の肺炎にかかることもあります。 65歳を超えると病気を持っている方が多いので「死なない」と安心はできません。

小若  新型Aは日本に入ってきて、流行りはじめていますね。

寺澤  今の流行がこのまま大流行になるのか、いったん終息して、再び大流行になるのかは、まだわかりません。
いったん終息した後、再流行するまでの期間は、長ければ1年以上ということもあります。
 ワクチンは、どの株でつくるのかということも、まだ決まっていません。製造ラインも限られているので、ワクチンの生産が流行に間に合わない可能性も十分あります。
 60歳以上では免疫がある可能性もあるといわれていますが、合併症から身を守るためにも、65歳以上の方は肺炎球菌のワクチンも受けてください。
 肺炎球菌のワクチンは、欧米では50%以上の接種率ですが、日本ではまだ15%ぐらいです。 子どもに中耳炎を起こす肺炎球菌は、ほとんど抗生物質の効かない耐性菌です。
 高齢者に肺炎を起こす種類の肺炎球菌にも耐性菌が増えています。かかると治療が難しく、命にかかわりますからワクチンを接種してもらいたいのですね。 1回受けると7〜8年は有効です。

●漢方薬を飲み、水と塩分の補給を

小若  「かかったかも」と思ったらどうすればいいのですか。

寺澤  ぞくぞくっときた段階で、すぐに漢方薬を飲みます。 漢方薬は長く飲み続けるイメージを持っている方が少なくありませんが、多くは即効性があります。「葛根湯(かっこんとう)」や「麻黄湯(まおうとう)」は体の丈夫な人、 「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」は虚弱者や高齢者。子どもには「麻黄湯」を使います。
 麻黄湯は、タミフルより早く解熱するという報告があります。食間または食前に、熱いお湯に溶かして飲みます。
その上で、塩を少し入れたお湯をたっぷり飲みましょう。天然液体だし(煮干し・あご・昆布を煮出したもの)を薄めたお湯なら、ミネラルも補給できるので、なおいいですね。
 子どもの3人に1人は、熱を出すと血液中のナトリウムが少なくなります。 このときにナトリウムの少ない点滴をすると症状が悪化して、けいれんや脳の障害を起こすこともあるから怖いのです。
 「風邪のときは、水分だけでなく、塩分も摂ってください」と言っています。これだけでたいていは治ります。
「ポカリスエット」や「アクエリアス」などのスポーツ飲料は塩分が少ないので、かえって症状が悪化することがあります。
漢方薬を飲んで、それでも熱が出てきたら、保健所に連絡を入れましょう。

小若  漢方薬は何日ぐらい飲みますか?

寺澤  たいていは1回か2回の服用で治ります。 1日(3回)飲んで変化がなければ、効いていないということです。
 漢方薬は、薬局で「医療用」を購入してください。この方がよく効きます。普通の風邪にもいいので備蓄しておきましょう。

●手・顔を洗い、うがいをする

小若  日本に入ってきた新型Aにかからないようにするには、どんな注意をすればいいでしょうか。

寺澤  帰宅したら、まず玄関で上着を脱ぎます。 それから、できるだけどこにもさわらないで洗面所に行って、手、顔を洗い、うがいをしましょう。 シャワーで頭から洗い、歯も磨いておくともっといいですね。これが対策の基本です。
外気に当たる衣服は全部洗わなくても、ミスト(蒸気)にあてれば安全になります。

小若  部屋の湿度を高くすればインフルエンザを予防できると言われますが、カビが発生するので、呼吸器にとって逆効果になりませんか?

寺澤  霧のようになった水分のミストは、ウイルスを殺すのに有効ですが、 湿度はウイルスに関係ありません。部屋の湿度を高めることは考えなくていいのです。

●子ども用のマスクも大切

小若  その次がマスクというわけですね。

寺澤  感染者が多くなったら、人ごみに行くときは高性能マスクを着用した方がいいですね。 インフルエンザをうつされないためには高性能でないと効果がありません。
 これまで注目されていた鳥インフルエンザが変異した強毒型も、いつ発生してもおかしくない状況が続いています。
強毒型の新型インフルエンザが発生して、日本に侵入したら、うつらないように細心の注意を払う必要があります。
 子どもはうつりやすいので、高性能マスクの必要性が特に高くなります。子どもがいる方は、「子ども用の高性能マスク」も備蓄しておいてほしいですね。

●強毒型も対策は同じ

小若  強毒型の新型インフルエンザが日本で発生したときはどうなるのでしょうか。

寺澤  そのときは、学校はもちろん、職場もかなりが休みになり、交通機関も一部は止まるでしょう。 飛行場の検疫官が防護服を着て、マスク、手袋、メガネをしていますね。あれと同じ服装はできませんが、汚染を避けるイメージはあのような感じになります。
家に帰ったときの対策は、現在の新型Aと同じです。

小若  今回の新型Aは弱毒型で、本当に怖い新型インフルエンザが発生する前に、準備の予行演習ができたのは幸運だったと思いますね。

寺澤  医療の体制が間に合っていないことも明らかになりましたが、改善の余地は十分あります。 私もインフルエンザ診断キットを買い足したりしました。
 強毒型の新型インフルエンザも、発生は「時間の問題」といわれているのですから、油断しないで、日頃から備えをチェックし、健康に気をつけながら生活してください。

小若  どうもありがとうございました。

月刊誌「食品と暮らしの安全」2009年6月1日発行 No.242

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