目的
このような背景のもと、私どもは、次のようなことを明らかにすることを試みました。
すなわち、インド、カンボジア、ベトナム、フィリピンの都市ゴミ集積場と対照地で採取したヒト母乳をダイオキシン類、PCBs、有機塩素系農薬の化学分析に供試することにより、汚染の現状把握、乳児のリスク評価、母親の甲状腺ホルモンおよびビタミンAへのダイオキシン類の影響評価を行いました。
1) 汚染の現状把握
2) 乳児のリスク評価
3)母親の甲状腺ホルモンおよびビタミンAへのダイオキシン類の影響評価
試料採取
本研究で用いたヒト母乳試料は、こちらに示しますように1999年から2001年にインド、カンボジア、ベトナム、フィリピンの都市ゴミ集積場周辺住民から採取しました。
インド、カンボジア、ベトナムでは、ゴミ集積場から5km以上離れた地点、これを対照地としますが、ここの住民からも、母乳を採取しました。
また、甲状腺ホルモンとビタミンA濃度を測定するために、母乳を提供して頂いた数名の方から、血液(血清)も採取しました。
これらの、採取前に、母親に十分にインフォームドコンセントし、母乳および血液を研究目的で使用する旨の了解を得ました。
分析した有機塩素化合物
この図は、本研究では、ダイオキシン類、PCB、DDT、HCH、chlordane、HCBを分析しました。
本研究で分析した有機塩素化合物
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母乳から検出されたダイオキシン類
まず、最初の目的であります汚染の現状について発表させていただきます。
この図は、インド、カンボジア、ベトナム、フィリピンの都市ゴミ集積場周辺住民の母乳から検出されたダイオキシン類の濃度とTEQの平均値を示したものです。
この結果、分析に供したすべてのヒト母乳中からダイオキシン類が検出されました。
すべての国において、モノオルソコプラナPCBsの残留濃度が最も高く、次いでPCDDs、ノンオルソコプラナPCBs、PCDFsの濃度順位でありました。
興味深いことに、インドのダイオキシン類濃度とTEQは、他のカンボジア、ベトナム、フィリピンより高くなっていました。
ゴミ集積場周辺住民の母乳から検出された
ダイオキシン類の平均残留濃度
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ゴミ集積場と対象地の比較(ダイオキシン類)
この図は、インド、カンボジア、ベトナムのヒト母乳中ダイオキシン類の平均値と濃度幅を、ゴミ集積場周辺住民と対照地の住民とで比較したものです。
横軸が残留濃度を、縦軸は各国のゴミ集積場をDで対照地をCで示しております。
インドでは、ゴミ集積場の周辺住民の方が対照地に比べ、高いダイオキシン類残留濃度を示しました。
このことは、インドのゴミ集積場にダイオキシン類の汚染源が存在することを意味しております。
一方で、カンボジアとベトナムでは、ゴミ集積場と対照地で残留濃度の地域差はみられませんでした。
ゴミ集積場と対照地のヒト母乳中に残留していた
ダイオキシン類の濃度比較
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母乳から検出されたPCBと有機塩素系農薬
DDTsやHCHs、クロルダン化合物、HCBなどの有機塩素系農薬やPCBsも、分析に供したすべての母乳から、検出されました。
カンボジア、ベトナム、フィリピンでは、DDTsが最も高濃度で検出され、次いでPCBsの残留濃度が高くなっておりました。特にベトナムのDDTは、他の国に比べかなり高い残留レベルでした。
HCHs、CHLs、HCBの残留濃度は、DDTsとPCBsに比べるときわめて低値でありました。
しかしながら、インドのヒト母乳中HCHsは、他国に比べ明らかに高い残留値を示しました。
このように、インドでHCHsがベトナムでDDTsが高くなることは、過去に行われた食べ物や野生動物の調査でも報告されており、これらの国々では現在もなおHCHとDDTが使用されていることが考えられます。
ゴミ集積場周辺住民の母乳中から検出された
PCBsと有機塩素系農薬の平均残留濃度
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ゴミ集積場と対象地の比較(有機塩素系農薬)
先ほどと同じように、ゴミ集積場と対照地の住民から採取した母乳中のPCBsと有機塩素化合物残留濃度を比較しました。
この結果、カンボジアとベトナムでは、ゴミ集積場と対照地の間に、PCBsと有機塩素系農薬の残留濃度差はみられませんでした。
しかしながら、インドでは、PCBsとCHLsの残留濃度がゴミ集積場周辺住民で有意に高くなっており、これら化合物の汚染源がインドの都市ゴミ集積場に存在し、周辺住民がPCBsとCHLsを暴露していることが示唆されました。
多分、PCBを含んだ製品、例えば、トランスやコンデンサーの投棄がインドのゴミ集積場の付加的汚染源になっていると思われます。また、インドのゴミ集積場では、CHLsがペスト予防など公衆衛生目的で使用されているのかもしれません。
牛の食餌風景
加えて、インドのゴミ集積場周辺住民は、牛乳を通してこれら汚染物質を暴露しているかもしれません。
この写真にみられますように、ゴミ集積場では、水牛や牛が採餌しております。
牛の食餌風景
ゴミ集積場で採餌した牛は、毎夕、牧場に戻り、搾乳されます。これらのミルクは、周辺住民が飲むほか、市場に卸されます。
すなわち、これらのミルクを通して、周辺住民は、ゴミ集積場由来の毒性物質を暴露し蓄積していることが考えられます。
実際、次のスライドに示しますように。
インドの水牛のミルクに含まれる有機塩素化合物
インドの水牛のミルクを分析したところ、ダイオキシン類、PCBs、CHLsの残留濃度は、対照地に比べ、明らかにゴミ集積場で高くなっていました。
これらのことを考えると、ゴミ集積場の周辺住民は、牛乳を通してこれらの汚染物質を暴露していると結論付けられます。
もし、家畜がゴミ集積場で採餌し、その製品を周辺住民が食べている場合、インドと同様のことが他国でも懸念されます。
ゴミ集積場と対照地で採取した水牛のミルク中に残留していたTEQ、PCBs、CHLsの濃度比較
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