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日本:PCBに関する日本からの報告

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PCBに関する日本からの報告

日本子孫基金
新居田真美


議長、ありがとうございます。日本子孫基金の新居田です。昨日、今日と、多くの方にお集まりいただき、盛大なPCBシンポジウムを開くことができて、光栄に思います。改めて、皆様に感謝申しあげたいと思います。


PCBの用途

PCBの製造が禁止されるまでに、1048トンを輸入、5318トンを輸出しており、国内の生産量と併せると、54001トンのPCBが、日本国内で使われたと見積もられています。その約70%が電気製品に使われました。
この表は、PCBがどのような製品に使われたかを示しています。PCBは、ビルや鉄道のトランス、蛍光灯の安定器、コンデンサーの絶縁油、暖房の熱媒体、ポンプの潤滑油、難燃加工、ノンカーボン紙などに使われました。ビルのシーラントにも使われたことが報道されています。

用途
製品例・使用場所
絶縁油

トランス用
ビル・病院・鉄道車輛・船舶等のトランス
コンデンサー用
蛍光灯・水銀灯の安定器、冷暖房器・洗濯機・白黒テレビ・電子レンジ等の家電用、モーター用等の固定ペーパーコンデンサー、直流用コンデンサー、蓄電用コンデンサー
熱媒体
(加熱と冷却)
各種化学工業・食品工業・合成樹脂工業等の諸工業における加熱と冷却、船舶の燃料油予熱、集中暖房、パネルヒーター
潤滑油
高温用潤滑油、油圧オイル、真空ポンプ油等
可塑剤


絶縁用
電線の被覆・絶縁テープ
難燃用
ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ゴム等に混合
その他
接着剤、ニス・ワックス、アスファルトに混合
感圧複写機
ノンカーボン紙(溶媒)、電子式複写紙
塗料・印刷インキ
難燃性塗料、耐食性塗料、耐薬品性塗料、耐水性塗料、印刷インキ
その他
紙等のコーティング、自動車のシーラント、陶器ガラス器の彩色、カラーテレビ部品、農薬の効力延長剤、石油添加物剤
引用:環境省(2001)パンフレット「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて」
多くの製品に使われたPCB ですが、いつごろから使われ、どのように規制されたかについて、次にお話ししたいと思います。

photo1
トランス
photo2
コンデンサ
photo3
安定器

PCBに関する歴史

日本国内では、1954年から、鐘淵化学工業によってPCBの工業的な生産が始まりました。商品名をカネクロールと言い、組成によってKC-300やKC-600などと呼ばれています。PCBの持つ電気絶縁性、熱安定性などの便利な性質が利用され、約5万9000トンのPCBが生産されたといわれています。

ところが、1968年の「カネミ油症事件」を機に、その毒性影響に注目が集まりました。PCBが混入した食用ライスオイルを食べた人たちが、被害を受けたのです。当時、約1万4000人ほどが被害を訴えたといわれていますが、1900人程度しか、政府に認定されておらず、患者は今も後遺症に悩まされています。最近でも、被害者女性に、子宮や卵巣などの生殖器官に障害があり、流産、死産も増えていることが、ニュースで報道されました。35年も経過しているにも関わらず、カネミ油症事件は、いまだ解決されていません。

調査研究によって、PCBというよりも、PCBに含まれていたダイオキシン類(ポリ塩素化ジベンゾフラン:PCDF)の影響も強いことが、後に明らかとされましたが、当時は、この事件をきっかけに、PCBの毒性が社会問題となり、規制されていくことになります。

まず、1972年に通産省による行政指導の形で、PCBの製造が禁止され、回収が指示されました。1974年には、法律的にPCBの製造・輸入・使用が原則として禁止されました。その後、処理施設の建設が難航し、PCBの処理はほとんど行われず、廃棄物がたまる一方であることが、日本の大きな課題となっていました。

2001年にストックホルム条約が採択され、国際的にもPCB廃絶がさらに求められていますが、ようやく日本も処理に向けて動き始めました。翌年には、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下、PCB特別措置法:The Law for the Promotion of Environmentally Sound Destruction of PCB Waste)が設立し、2002年にはストックホルム条約にも加入しました。
法律については、次にお話しします。

1929 米国スワン社(後にモンサント社に合併)生産開始
1954 国内生産開始(鐘淵化学工業、1969年に三菱モンサント)
1968 カネミ油症事件発生、PCBの毒性が社会問題化
1972 行政指導(通産省)により製造中止、回収などの指示(保管の義務)
1974 化学物質の審査及び製造に関する法律制定・施行(製造・輸入・使用の原則禁止)
1976 廃棄物処理法の処理基準として高温焼却を規定
1987〜89 鐘淵工業高砂工場において液状PCB約5500トンを高温焼却
1992
廃棄物処理法により特別管理廃棄物として指定
1998 廃棄物処理法の処理基準に化学分解法等を追加
2000
新たな化学分解法などの追加、ミレニアム・プロジェクトの実施
12月 ヨハネスブルグでPOPs条約案が合意
2001
5月 ストックホルム条約が採択
6月 PCB特別措置法成立
10月電気事業法改正


法律と規制

国内では、化学物質審査法、廃棄物処理法、PCB特別措置法によって、PCBの管理が定められています。

PCBの製造、輸入、新たな使用の禁止は、1974年に制定・施行された「化学物質の審査及び製造に関する法律」で決められました。しかし、既にPCB入りの製品として使用されていたものについては、規制がなかったため、今現在でも使用が続いています。高圧トランス、コンデンサ、蛍光灯の安定器などが、これに当たります。

PCBの保管方法や処分方法が定められているのが、廃棄物処理法です。この法律の中で、PCBは「特別管理産業廃棄物」と規定されており、管理責任者を選び、適切な保管・処理を行うように定められています。処理法についても定められていまして、1997年には、焼却法に加えて、化学処理法なども認可されています。

そして、2001年に施行されたPCB特別措置法では、2016年までにPCB廃棄物を処分するという具体的な目標が定められました。毎年、保管・処分状況を届け出なければならなくなり、虚偽の届け出をすると罰則があります。


PCBの使用と保管量

2001年のPCB特別措置法によって、PCBの所有者は、PCB廃棄物の保管状況と使用中のPCB含有機器を届け出なければならなくなりました。そのデータが昨年にまとまり、環境省によってデータが公表されています。この使用量中のものとは、PCBを保管している事業者が届け出たもののみなので、現在も使われている全ての量を表しているわけではなく、注意が必要です。

今のところ、保管量が分かっているPCB廃棄物は、高圧トランス・コンデンサが約24万台、低圧トランス・コンデンサが約118万台、安定器が約417万個、PCBを含む油が約14万トンです。1998年の調査に比べて、保管量が増加していますが、耐用年数が終わり、PCB廃棄物として保管されたり、今まで把握されていなかったPCB機器が新たに発見されたためと考えられます。

電気機器の中でも、特に、高圧トランスやコンデンサに多くのPCBが使われたことから、大きな汚染源となっている可能性があります。蛍光灯安定器は、一個に含まれる量が微量で、PCB量は少ないものの、台数が大量であるため、汚染源として無視はできません。


PCBの保管方法

廃棄物となったPCBの保管は、周囲に囲いを設けたり、表示を行ったりなど、厳重に行うように定められています。ところが、管理されているはずのPCBが紛失・行方不明になっているようです。例えば、大きなトランスやコンデンサでは、1万個以上も不明になっていると見積もられています。いかにずさんな管理が行われてきたかが伺えます。

PCB廃棄物の保管は、事故によってPCBが環境中に放出されたり、過失・故意による不適切な処理を招きいたりすることによって、環境汚染につながります。特に、保管が長期化すると、そのリスクは高くなると言えます。保管しているものを一刻も早く無害化処理することが、日本の課題と言えるでしょう。


使用中PCB機器の問題

そして、蛍光灯安定器やトランス・コンデンサなど、現在も使用中のPCB含有機器があります。これらは、閉鎖系で環境中に漏れ出ないと考えられてきましたが、実は、そうではありません。耐用年数を超えたものは、破裂事故が起こり、環境中にPCBが広がる可能性があります。

日本では、ここ15年ほどで、約30件の蛍光灯破裂事故が起こりました。それも、学校の校舎で起こっており、児童が頭からPCBを被り、社会的に問題となりました。教育現場での回収・交換が指導されてから、現在では、交換が進んでいます。学校以外の公共施設には、まだ存在する可能性があります。

事故が起こらなくても、蛍光灯の安定器やシーラントでは、使用中に少しずつPCBが揮発することを裏付けるような研究が報告されています。たとえ、漏れ出た量が微量だとしても、一度環境中に漏れ出れば、生物濃縮を経て、野生動物だけでなく、ヒトもPCBで汚染されることになります。

現在使用中のPCB含有機器を正確に把握し、廃棄物となった場合には、適切に保管、廃棄を進める必要があります。


ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法の体系

日本の現状は、大きく3点にまとめられます。

  • PCBを含んだ機器による事故や紛失が相次いでいる
  • 処理がほとんど進んでいない
  • 渡部先生の専門ですが、魚介類のPCB汚染も進んでいる

これらの課題が約30年間も放置されてきましたが、ストックホルム条約が採択され、国際的にPCB処理を進める動きとなっていることもあり、ようやく、政府も対策を始めました。それが、法律のスライドで紹介したPCB特別措置法になります。

事業者には、保管の届け出、譲渡の制限、期間内の処分が義務づけられています。

国、都道府県には、PCB処理基本計画を策定し、事業者からの保管等の状況を公表することになっています。PCB製造業者にも資金などを負担する責務を課しています。




PCB広域処理施設の建設が始まる

環境事業団は、全国の地域ブロック毎にPCBの広域的な処理施設を設置し、保管業者から委託を受けて処理を行います。2001年11月に北九州市で、処理施設が決まり、その後、愛知県、東京都でも受け入れが決まっています。空白の地域の受け入れ先を決めることが課題となっています。処理方法は、化学処理のいづれかの方法が採用されます。

北九州市は、初めてのケースですが、受け入れのために、住民と100回を超える話し合いの場を持ちました。さらに、住民を交えた監視委員会を作り、計画の段階から市民が参加しています。搬送には、堅固な密閉式容器を使用する、衛星の監視システムで常に輸送車両の位置を把握するなどが、計画に反映されました。この北九州市の例が、モデルとなり各地方の処理事業の参考になりそうです。



日本子孫基金の今後の活動

今後も、日本子孫基金では、PCBの問題に取り組んでいくつもりです。今のところ、次の企画を考えています。

PCBが何に使われているか、写真などを使って示したポスターを作り、市民やリサイクルセンターなどに配布する。そのポスターを使い、実際に、古い安定器やトランス、コンデンサーなどが存在するか調査する。もし、機器が存在し、油にPCBが含まれているかどうか分からない場合は、数点、化学分析を行う。アジア地域のヒトの汚染すなわち母乳汚染を明らかにする。今年度に引き続き、情報交換を行うため、シンポジウムを開催する。

みなさんからのアイディアも募集しています。ディスカッションタイムで、議論しましょう。
ご静聴、ありがとうございました。


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