日本のエネルギー利用を考える
余った天然ガスを安く買う工夫
日本はどうしたらいいでしょうか。
買ってくればいいのです。でも日本の天然ガス購入価格は17ドルと高く、
貿易赤字の原因になっているという指摘があります。
それは、一番沢山ガスを使う電力会社が、安く買う努力をしてこなかったからです。 ガスが安くなれば、ライバルのガス会社を有利にし、原発がますます不利になるからです。
今、電力会社は、存亡の危機にあるため、ようやく、輸入ガス価格を下げる努力を始めました。 ある電力会社は、これまでより3割安い値段で契約することに成功しました。やる気になればできます。
これからは、シェールガス革命で、世界中でガスが余って、買い手市場になるのですから。
選挙中、新党大地の鈴木宗男氏が「ロシアからパイプラインを引く」と言ったら、他党の幹部が笑いました。 しかし、鈴木氏の提案が実現すれば、日本はものすごく優位に立てます。
ロシアは、今後はヨーロッパにガスを買ってもらえなくなる、と焦っています。日本の提案に飛びつくはずです。 日露パイプラインができれば、かつての仮想敵国とは協力関係になります。北方領土交渉にも好影響を及ぼします。
そして、中国への強力なけん制になります。
日露パイプラインができれば、安いガスが日本に入って来るので、 天然ガスを液体のLNG(液化天然ガス)にして日本に輸出しているオーストラリアや中東のカタールも、値段を下げざるを得ません。
こういう努力を続ければ、日本のガス輸入価格は10ドル以下にできるでしょう。現在のヨーロッパと同水準です。これなら、世界と十分に戦えます。
なぜ、十分戦えるかと言えば、日本には技術力があるからです。 ここ数年で発見された数百年分という膨大な天然ガスと日本にしかない技術を組み合わせれば、
世界中がうらやましがる新しいエネルギーシステムを築けます。
いずれ主役の家庭用燃料電池
最後に、そのシステムについて話しましょう。 その場合、家庭用と産業用に分けて考えます。年収500万円〜1000万円の家計と、年間売上が数千億円〜数兆円の企業では、
使うエネルギー量もお金もまったく違いますから、分けて考える必要があります。
家庭用では、答えは1つです。
都市ガス(主成分は天然ガス)またはプロパンガスを燃料にして、 電気を起こし、お湯も暖房もできる家庭用燃料電池(商品名「エネファーム」)を使うことです。
自宅で使う電気の7割はまかなえます。足りない電気は電力会社から買うか、屋根に太陽光発電パネルを載せればいいのです。
燃料電池は、米国が宇宙ステーションのエネルギー源として開発した技術です。 これを、家庭用の機器にしてしまう日本は、いい意味でとんでもない技術の国です。2030年までに、530万台普及させようというのが、日本の計画です。
問題は価格です。現在は200万円くらいと高いのです。しかし、電力会社から買う電気を大幅に減らせ、 電気代を節約できるので、数年で元がとれる家庭もあります。
先ほど言ったような理由で、今後、電気代はさらに上がる可能性もありますので、経済性はもっと高まります。 しかも、現在、すごい勢いで売れているので、量産効果により数年後には100万円を切り、その先は50万円以下になります。
銀行に預金しても、利息はほとんどつきません。お金に余裕がある人は貯金代わりに、今買ってもいいでしょう。 そうでない人は、2〜3年待って、安くなってから買うのがいいでしょう。
40万円なら、現在の給湯器とほぼ同じレベルです。新たに発電までできることを考えれば、極めて割安です。
この家庭用燃料電池は、日本にしかありません。いずれ世界中で普及するでしょう。
かつて、原発を推進するために考え出したオール電化は、一時の勢いはありませんが、今でも売れています。 もっと世界の趨勢を勉強してもらいたいものです。
地球温暖化説からCO2排出量を心配する人もいるでしょう。 参考までに言いますが、オール電化より、燃料電池+ガスコンロのほうがCO2排出量も少ないのです。
もちろん、エネルギー効率もいいので、社会全体の省エネになります。
省エネ性能に優れた機器の開発を
さて、産業用です。こちらは、福島原発事故以降、工場敷地内に自前の発電所を造る動きが増えています。自家発電です。 こちらも発電の際に出る排熱を、工場の生産現場で使うコージェネにすれば、省エネとCO2低減ができます。
そうそう、エネファームは家庭用のコージェネです。
原発がないと電力不足になり、製造業が海外に流出するという説があります。企業の海外流出は20年以上前から始まっており、電力不足は関係ありません。
しかも流出先は中国やインドであり、そこは1年中、停電に悩まされている国です。
燃料が安ければ競争に勝てるわけではありません。石油やガスがタダみたいな値段で使える中東やロシアですが、 競争力を持つ製造業はありません。要するに知恵です。
コージェネで省エネを実現すれば、輸入するエネルギー量を減らせます。貿易赤字を改善できます。
日本が省エネ性能に優れた機器を開発すれば、すごい競争力を持ちます。
大事なのは「電力制度改革」
ここでは、スペースの関係で再生可能エネルギーの可能性と限界に触れませんでした。 再生可能エネルギーは今後、徐々に増加し、一定の比率を占めますが、数十年の期間では、メインのエネルギーにはなれません。
さて、選挙が終わって、これからエネルギー政策が動き始めますが、一番大事なのは「電力制度改革」です。 やる気のある企業や起業家が発電事業に参入できるようにすることです。
自宅のエネファームで発電した電気、工場のコージェネで発電して余った電気、 あるいは福島県の家畜農家が糞を利用して発電した電気のような草の根の電気も、電力会社の送電線に送りこんで、
みんなが使えるようにならないといけません。
電力制度改革が、きちんとできるかどうかが、日本が世界に誇れるエネルギー利用システムを構築するための第一関門なのです。
月刊誌『食品と暮らしの安全』2013年1月1日発行 No.286記事