食品と暮らしの安全基金代表 小若順一
「足が痛い子どもが7割いる」
「10ベクレル食で痛みが出る」
「年間0.05ミリシーベルトで痛みが出る」
ウクライナへ取材に行くと、聞いたこともない事実や、放射能の国際基準に反する事実に、次々と出会います。 「歳をとった人は、放射能の心配をしなくていい」と、聞かれたことがあるでしょうが、これも間違いでした。
月刊誌『食品と暮らしの安全』2012年7月号表紙に「事故の10年後から、体調は悪化の一途となり、現在、体のあちこちが痛いのです」と、46歳から53歳女性の話を紹介しています。
7月の時点では、細胞分裂をほとんどしない非再生組織のことが思い浮かばなかったので、痛みが起きる原理に気づかず、事実だけを紹介しました。
その後、細胞分裂しない臓器が放射線でダメージを受けたらどうなるか、という問題意識が芽生え、 数人の先生からレクチャーを受けて、ここが見落とされていた、と確信を持つようになりました。
放射能で、痛みが出る原理はこうです。 放射線によって死んだり、機能しなくなった細胞が、 細胞分裂してそれをカバーできる細胞より多ければ、その組織にはダメージが蓄積していきます。
ダメージが一定量を超えると、痛みとして出てくるというのが、私の説です。 定説になるには時間がかかるでしょうが、この説は、歴史をさかのぼると知られていたはず、と考えています。
放射線や放射能の研究が始まった当初は、研究自体が放射線障害を伴うもので、障害がひどくなって亡くなった人もいました。 そういう研究者が、痛みが出ることを報告していたはずだからです。 新聞もテレビも、放射線や放射能汚染でガンができることは、よく報道しています。
放射線で遺伝子が傷ついても、ガンが発生するまでに寿命が尽きる高齢者は、ガンの発生率が高まらないのは事実です。 しかし、痛みには触れていないので、痛みが出ることを見つけたのは、社会的な大発見だと思います。
放射能で汚染された食品をヒトに食べさせる実験はできません。ネズミで実験しても、痛みが出ているかどうかを正確に把握することはできません。 だから、放射能汚染食品でヒトに痛みが出るかどうかは、研究されていなかったのです。
ところが、チェルノブイリ原発事故による汚染地で自給生活をしている人たちは、放射能汚染食品を食べざるを得なくなりました。 その結果、大規模な「人体実験」が進行しているので、ウクライナで調べれば、次々と発見があるのは当然なのです。
中高年になると、多くの人は体のどこかが痛くなるので、痛みが放射能の影響で出たのかどうかを確認することはできません。 しかし、「歳をとって非再生組織の再生力が弱くなると、ダメージが早く蓄積するので、子どもより高齢者の方が早く痛みが出る」というのが、原理的に正しい考え方です。
「歳をとっても、放射能汚染食品を食べると痛みが出る」を定説にする必要があります。
2012年12月1日発行 No.284より