食品と暮らしの安全基金代表 小若順一
「相手が一番話したくないことを、最初に聞くのが本当のインタビューだ」と、NHKの大物プロデューサーから聞きました。 しかし、ウクライナではかなり違う方法でインタビューしています。
昨年9月に『放射能から子孫を守りたい』を発行したころから現地取材をしたかったのですが、壁が厚く、アイデアが沸いてきたのは4ヵ月後。 それからは次々にアイデアが沸いて2〜3日で企画が出来上がり、現地取材を決めました。
赤ちゃんがガンにかかって絶望的な状況の中で必死に頑張っている母親や、 遺伝的な被害を受けて赤ちゃんを治せなくなっている母親を探して、話したくないことを話してもらう取材です。
だから、せめて一瞬でも気持ちを明るくさせようと考えついたのが、土産を淡水パールにすること。 パールのとれない地域に、淡水パールを持ち込めば、一瞬は喜んでくれるはず。それからインタビューしようというわけです。
取材で土産を渡すのはルール違反ではありません。私は、NHKをはじめ、たくさんの土産をもらって持っています。
第1回取材では、持っていた淡水パール・ネックレスをすべて持って行き、病院で大放出し、4日目に私が帰国してから後は、林さんと趙さんが村で配りまくりました。
そこで、親しくなった人たちが今回の取材に協力してくれて、考えられないほど多くの家族に会うことができたのです。
第2回目の取材では淡水パールを大量に仕入れて、私の通販会社で販売を始め、その一部をウクライナに持って行って、インタビューに応じてくれたすべての被害女性に渡しました。
健康にトラブルを起こしていても、女性たちは必ずしも事実どおりのことを話してはくれません。親しくなって打ち解け、 その上、同行者がある程度のことを知っているから、本当の健康状態を話してくれるのです。
医学チームが現地に行けば、病気のことはわかるでしょうが、日常的に困っている体の変調はおそらく調べられないでしょう。 放射能の被害調査は、どの線量の地域で、どんな病気で何人が死んだかを調べ、統計データとして処理したものです。
しかし、いきなり死ぬケースはまれで、その前に体調不良が続いていたはず。この体調不良が、食品を汚染した放射能の危険性として論じられていないのです。
科学的に調べられた結論は、特定の狭い条件の中では正確です。ところが人間は、その特定条件からはみ出して生活しています。 だから、現在の科学で食品の規制を行っても、危険が不明な部分による傷害を、国民に押し付ける規制になっています。
かつては国民に被害が出ないよう「安全率」を掛けていましたが、放射能は逆で、危険性を加算した基準になっているのです。
今、ウクライナで人に出ている被害を、どれだけ把握できるかが、今後の日本人の健康を左右します。
現地調査を継続できるよう、今後もご支援をお願い申し上げます。
2012年7月1日発行 No.279より
⇒チェルノブイリ、子と孫の健康調査