海の水族館ではたいていイルカショーやイルカパフォーマンスが行われています。
そして暖かい時期には、ウエットスーツを着てイルカに触らせてくれたり、背ビレにつかまってイルカと一緒に泳がせてくれたりします。 イルカに触った子どもも大人もみんな大喜びしています。
「イルカの背ビレを持って泳ぎます」
「イルカと一緒にキスの記念写真」
「いつまでも心に残る人とイルカの物語」
こんな宣伝をしているのが、和歌山県の「太地町立くじらの博物館」。
その近くで残虐なイルカ漁が行われ、それを隠し撮りした米ドキュメンタリー映画『ザ・コーブ(入り江)』が、昨年、話題になりました。 この映画に対して、日本語のネットでは、「伝統的な漁」を擁護し、映画を批判する意見が大勢を占めています。
しかし、太地町で捕鯨が始まった400年前と今では、食糧事情や漁具だけでなく、イルカへの親近感が違います。 「心に残る人とイルカの物語」とPRする町で、湾内が血染めの海になるようなイルカ漁をすることが、道理にかなうわけがありません。
多摩川に上がってきたアザラシの「タマちゃん」を殴り殺して、切り裂いて食べたらどうなるでしょうか。 それと同じ気持ちを、イルカ漁に対して、外国人は抱いているのです。
問題は捕鯨です。1982年に商業捕鯨の一時禁止が決まると、日本は「調査捕鯨」を行うようになり、 それが「形を変えた商業捕鯨」と外国から批判を受け、シー・シェパードが過激な妨害行動を繰り返していることは、みなさんご承知のとおりです。
日本人は、イルカと鯨は違うと思っていますが、実際は、小さな鯨がイルカで、大きなイルカが鯨です。 だから、イルカと鯨をあまり区別しない外国人が、調査捕鯨に感情的に反対するのは当たり前です。
日本でも、ホエール・ウォッチングに行くと、捕鯨に反対するようになる人が多いのですが、これは理屈ではなく、感情です。 捕鯨推進派は「食料不足に備えて」「食文化の伝統を尊重」などと言います。
しかし、日本人の食肉摂取量の1%にも満たない鯨肉で、「食料不足」を解消できるわけがありません。 「食文化の伝統」を確かめるために、私は、学校給食以来、40数年ぶりに鯨肉の刺身を食べてみました。
すると、まずいのです。100g428円なら、もっとうまい牛刺しや馬刺し肉を買えます。 もし、鯨肉が東京のスーパーに出回ったら、消費者は鯨肉を嫌いになるでしょう。本当に食べたら、この「伝統」は消えるに違いありません。
大して価値ある肉ではないのに、「調査」と称して捕鯨を行い、日本人嫌いの外国人を増やしていることを考えると、調査捕鯨も、もうやめる時期に来ていると思います。
政府は今年の事業仕分けで、調査捕鯨の予算をカットすべきです。
食品と暮らしの安全 代表 小若順一
2010年3月1日発行 No.251より