食品と暮らしの安全基金代表 小若順一
市民から基金を募って化学物質の遺伝毒性を調べ、子孫を守ろう、と呼びかけを開始したのが30年前の1984年2月20日。 本誌は今月号で300号を迎えました。
設立時に「日本子孫基金」と名乗ったように、子孫を守るのが安全基金の原点です。
1970年代は、化学物質が子孫に伝わる遺伝子を傷つけるかどうかを、培養細胞やバクテリアを用いて見つけようとするスクリーニングテストが開発された時代でした。
この手法の限界が明らかになって、もう少し複雑な第2次スクリーニングテストの開発が盛んだったのが1980年ごろです。 ところが1985年ごろには、スクリーニングテストで十分となり、化学物質の遺伝毒性への懸念は忘れられていきました。
スクリーニングテストでわかった遺伝子を傷つける物質を、人体に入らないように規制しておけば、生殖細胞はそれで守られる、というわけです。 子孫への危険性を、本当に排除できていることは実証できませんが、かなり有効な規制であることは明らかです。
これと対極にあるのが、放射線です。
放射線は、生殖細胞と、その他の体細胞を区別せずに、遺伝子を傷つけます。 体細胞は、遺伝子が傷ついて細胞分裂するときに死んでも、隣の細胞が分裂して置き換わります。だから、何もなかったように身体は組織を維持しています。
それで、身体への影響は一定以上の線量がないと明らかにならないため、影響がない「閾値」があるとされています。 体細胞は、低レベルの被曝なら修復機構が有効に働くので、時間の間隔をあけて少しずつ被曝すると、影響は少なくなります。
一方、子孫に伝わる生殖細胞の遺伝子に小さな傷がつくと、そのまま伝わって、遺伝的な悪影響が子孫に及びます。 傷が大きいと流産や死産になり、子孫には伝わりません。
生殖細胞の遺伝子は、分子が1つ傷つくだけで、生まれた子の全細胞の遺伝子が傷ついています。だから、修復することはできず、閾値もありません。
放射線はどんなに微量でも、量に応じて子孫に悪影響を加えるのです。
悪影響がすぐ見えるのが奇形。時間がたってわかるのが遺伝病。小さな影響は何世代もたたないとわかりません。 この遺伝毒性が、原発事故後、まったく無視されています。
遺伝では、ある集団の遺伝子全体のことを、「遺伝子プール」と言い、遺伝子プールの遺伝子は、受ける放射線の総量に比例して劣化します。
原発事故で大量の放射能がばらまかれたので、日本人の遺伝子プール(=遺伝子)が劣化したことは間違いありません。
今でも「食べて応援しよう」と劣化させ続けているのは、子孫に対する犯罪です。
ウクライナで、食品汚染による被曝を減らし、健康を回復させている活動は、ウクライナ人の遺伝子を守ることに直結しています。 これと同じ活動を日本で広めれば、日本人の遺伝子を守ることになります。
2014年4月1日発行 No.300より
⇒ウクライナ調査報告