放射線の経世代発ガン発見---野村大成先生を悼む
妊婦が放射線を浴びると子や孫に影響が出る経世代発ガンの研究で
比類なき成果を挙げた野村大成・大阪大学名誉教授が
2022年7月7日逝去されました。
1942年生まれの野村先生のお人柄と、偉大な功績を振り返ります。
野村先生は、私の活動を評価して、とても親しく接してくださったので、
何度も大阪へ行ってインタビューしました。
福島原発事故の後、『放射能を防ぐ知恵』をお渡しして、
「事務所に2ヵ月、泊まり込んで書きました」と言うと、
「ほう、君は2ヵ月かね。私は3年だ」と言われ、恥じ入った記憶があります。
新米外科医のとき「朝6時から夜10時まで患者を診るなら、あとは何をしてもいい」と教授に言われ、
研究室でマウスを飼って、ウレタンを注射し、夜な夜な発ガンの研究に没頭。
忙しくて、マウスに子どもができたのに雄雌を分けなかったら、孫ができて、孫にガンが多いことがわかりました。
この実験は、「発ガン物質・孫にも影響」と1979年に新聞に出て大きな話題になりました。
それから遺伝の研究に入り、放射線で実験しました。
1980年代の前半に、環境変異原学会で野村先生が特別講演すると、
超満員になって私は階段に立って講演を聞きました。
マウスをたくさん飼っている研究室は「マウス部屋」と言われていました。
研究者から先生はマウスの生理日がわかると聞いたことがありますが、それほど研究に没頭されていたのです。
妊娠初期のマウスに、特定の時期に大量の放射線を一瞬だけ掛けると、産まれたマウスに異常が出ます。
その結果をまとめると、素晴らしい論文になるのです。
普通の研究者が妊娠したマウスに大量の放射線をかけても、特定の時期を外しているので、追試が成功しません。
後に大規模実験が行われて初めて、「ノムラが正しかった」となるわけです。
「内部被曝は、常に一定の被曝をするので、妊娠中の危険性が高い時期も被曝し、危険性がすごく高くなる」と、
野村先生は話され、「食事の放射能汚染を減らすヒトでの調査は素晴らしい」とウクライナの活動を高く評価してくださいました。
●トリチウムの突然変異率は2.2倍
野村先生は、福島原発の処理水放出で問題になっているトリチウムについても研究されていて
「マウスを広島大学の原爆放射線医学研究所に運んで、トリチウムを注射すると、
ガンマ線による外部被曝の2.2 倍も高い割合で突然変異が出ました」と話されました。
そして「トリチウムは原子炉から直接出るのではなく、冷却水が放射化されているのです。
それをどんどん流しているわけでしょう。垂れ流しですよ。とんでもないことです」と憤っていました。
お元気だったら、処理水を海洋放出する政府の方針に大反対されていることでしょう。
編集長 小若順一
「食品と暮らしの安全」2022年11月1日発行 No.403掲載
野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅠ「孫以降の世代にもガンを起こす」
野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅡ「放射線の次世代への影響が心配」