1ベクレル/㎏は内部被曝から人体を守る防衛ライン。
この数値を守る仲間と連合をつくって、健康と未来を守ろうと
オルターの西川榮郎代表が提案、当団体の小若編集長と意気投合しました。
西川 榮郎(にしかわひでお)
代表。
株式会社オルター
NPO法人 安全な食べものネットワーク オルター
聞き手:月刊『食品と暮らしの安全』小若順一編集長
●国民を守る社会運動に
小若 1ベクレル連合をつくろうという発想は、面白いけど、どうして?
西川 いま、放射能について、1ベクレル/㎏と明快な見解を持っているのは、食品と暮らしの安全基金とオルターだけでしょう。
有機農業をやってきた人たちが、放射能のことを真剣に取り組んでいません。
有機農業は、化学肥料や農薬のない農業と決めているわけでなく、安全を第一にして、生態系を守ったり、人間の命を守るということでやってきたはずです。
東北を始め、かなりデータは蓄積されてきています。福島の周辺とかを除けば、1ベクレル/㎏で日本の農業は守れることがわかってきました。
1ベクレル連合を呼びかけて、呼応する人たちを、生産者でも消費者でもバックアップしていくときが来ています。
1ベクレル連合をつくって、志を同じくする団体、生産者が社会運動として、今こそ、国民を守ろうと立ち上がるべきと、それが提案している理由です。
小若 それはいいですね。私たちは放射能による健康被害を出さないために、基準は1ベクレルでなければと主張してきました。
ところが、マスコミを始め、どこも報道しません。
西川 オルターは腫物をさわるように扱われていますよ。
批判したら、何が返ってくるかわからないから、見て見ぬ振りされている状態です。
小若 原発事故が起きた当事国の消費者団体や生協が、あいまいな態度を取り続けているのだから、話になりません。
西川 消費者団体も生産者も、自分たちはどこに軸足を乗せるのか、決めなくてはいけないですよね。
小若 旗を挙げて、じわじわ決めさせましょう。
●
産地で選ぶ、測って選ぶ
小若 3.11以降のオルターの取り組みについて教えてください。
西川 原発事故後、2011年の6月10日に、全国の生産者に集まってもらって、対策方針を練りました。
結論は、1ベクレル/㎏を超える可能性がある地域を「岩手県南部から愛知県の東部の太平洋側」と定め、このエリアの品物を、優先的に放射能検査に掛けることにしたのです。
小若 1ベクレルを基準としたのは?
西川 アインシュタインと一緒に反核運動をした方で、
広島・長崎の低線量被曝調査を行ったアメリカのジョン・W・ゴフマン博士の1万人シーベルト、ガン死4000人を根拠に、 大人10ベクレル/㎏、子ども1ベクレル/㎏、2歳以下・妊婦を0.1ベクレル/sを放射能汚染対策の基準とすべきと考えました。
ですが、市民団体として測定可能なのは1ベクレル/㎏。これを防衛ラインにと考えたのです。
小若 だから、まず産地で選べと?
西川 我々は、会員の命を守ることと、生産者の生活を守る両方を追求したわけです。
福島の汚染がおよばないところは、おそらく1ベクレル/s以下であろうと。それなら、恐ろしさはそれほど深刻ではありませんから、 「汚染可能性区域」以外のものを、まずカタログに掲載しました。
オルターは北関東に米とか野菜とかで、半分の生産者がいましたから、1ベクレル/sから10ベクレル/sが予想されるものについては、 60歳以上は、とりあえず、食べてもそんなに影響は少ないだろうということで、別チラシにして買っていただき、検査が終わるとカタログに移行させました。
検査は、ドイツに発注した「NaI(Tl)シンチレーションγ線スペクトロメータ」が届くまでは同位体研究所に依頼。 セシウム134と137の合算で1ベクレル/㎏以下になることを確認すると、「ND」マークを付けて、カタログに載せました。
ですから、カタログに載っているのは、汚染地以外とNDが確認された物だけです。
また、震災直後には、カンパで大きなお金を集めましたが、心配で食べられない間、各生産者あてに100円カンパを集めました。
生産者を「食べて守る」ではなく「カンパで守る」です。毎月、1生産者10万円くらいになり、待っている人がいるという気持ちを込めて届けることができました。
小若 正しい方法ですよ。「食べて守ろう」なんて、健康被害を無視したひどい標語です。
西川 生産者を支えること。検査結果でNDマークができれば、その生産者を風評被害から守れますしね。
●
新たな汚染を持ち込まない
西川 私たちは、可能な限り放射能のないものでやろうという方針なので、
加工食品の場合、原料を調べて、最終製品でも調べます。
また、汚染地域の作物は製品で調べますが、その他の地域では、肥料など投入資材で他所から持ち込んでくるものは全部調べます。
作物が1ベクレル/㎏以下の田畑に、汚染されたものを入れれば足し算になる恐れがありますから、新たな汚染を持ち込まないように、気を使っています。
逆に、汚染地域は、その地域の資材は危ないので、低投入型にしたり、ゼオライトを入れて、汚染が低減される方法を取っています。
白菜とかほうれんそうとかは1回調べて、肥料も調べれば、オルターの場合は、決まった畑で、決まった人が作っているのですから、1回調べたら、ずっとNDです。
しかし多年性作物、お茶とか、果実類などは、蓄積していく恐れがありますので、毎年調べます。
小若 野菜は、今はNDでも、土壌の汚染が高い所は移行率が変わるかもしれません。
ウクライナで測り続けてきた研究者のデータを、ホームページに掲載していますが、事故から4〜5年後くらいに作物の汚染度が高くなり、そこから減っています。
その意味で、5年後の今年の検査が重要で、減り始めたら、モニター検査しか必要なくなります。
ところで、海産物の場合はどのように?
西川 冷凍した水産加工品は、全品、ロットごとに調べています。
鮮魚は、食べる前に調べるのは無理です。汚染の可能性があるのは、福島沖を横切って泳ぐ魚で、底を泳ぐ魚です。
海域を調べて、問題ないと類察して鮮魚は提供しています。
もともと、オルターでは内水の汚染も心配しているので、出雲沖、紀伊水道、高知沖、それと北海道のオホーツク海側の魚を扱っていました。
イリコは小さくて蓄積しないので、瀬戸内海産。カキは北海道産です。
●安全率を掛けて1ベクレル/㎏
西川 国は100ベクレル/sを基準として、「安全」を押し付けていますが、なぜそんな荒っぽいことを国民に強要するのか。
また、内部被曝と外部被曝を、混同しています。そうすれば、データをごまかせます。
安全率100を掛けるのが毒性学の常識ですから、100ベクレル/㎏に安全率を掛けて1ベクレル/㎏を基準とすべきです。
小若 安全基金は、ウクライナの調査で1.1ベクレル/㎏で頭痛が出ていることを発見し、
1ベクレル/㎏を基準にしようとアピールしていますが、「国の基準に安全率をかけて1ベクレル/㎏に」が、わかりやすい。
1ベクレル/㎏を上限にすると、最大1ベクレル/㎏ですから、実際は、それよりかなり低いわけで、その余裕が安全率になりますね。
西川 そうです。実際に調べると、最大0.3とか、0.5とかで見ていますから。
小若 では、1ベクレル/kgを食べものの基準にして、内部被曝から守ろうと「1ベクレル連合」を呼びかけましょう。
参加していただける団体に名乗りを上げていただいて、その方たちと一緒に旗揚げという手順で。
西川 オルターの生産者は、全員参加できますよ。
小若 こちらが事務局を引き受けます。どんな運動ができるか、楽しみです。
「食品と暮らしの安全」2015年3月1日発行 No.311
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