PCB自体の生産が禁止されてからも、まだ使用が続いているPCB機器。その中でも、蛍光灯の安定器は、たとえ1個あたりのPCB含有量が少なくても、数が多く、学校や病院など身近な場所に存在するため、無視できるものではありません。安定器から、PCBが漏れることはないのでしょうか?使い続けても、本当に安全なのでしょうか? |
内部のコンデンサーの構造
内部のコンデンサーの写真
そこで、蛍光灯からPCBが揮発する事実を明らかにするために、東京農工大学工学部(細見正明研究室)と共同で、二つの実験を行いました(Funakawa
et al., 2002)。
- PCB含有蛍光灯安定器が使われている部屋におけるPCBの空気汚染を調査
- 安定器を一つとりはずし、密閉した実験系の中に入れ、安定器から揮発するPCB量を測定
<PCB含有機器を使っている室内空気の測定方法>
PCB含有安定器を使用した部屋(日本子孫基金事務所)で、作業環境測定法に従って空気を採取(図1)。使用可能な蛍光灯を全て点灯し、空調は停止し、ドアや窓は閉め切った状態で、3〜4日間連続的に採取しました。試料採取日は、2001年9月と12月の2回。なお、対照群として、東京農工大学工学部でも同様の試料採取を行っています。分析は、GC/MSで行いました。
(図1)室内中及び環境大気中PCBサンプリング方法
<PCB含有安定器を使用している室内空気の方が高い>
対照群では検出されなかったPCBが、PCB含有安定器を使用していた部屋では、110ng/m3(9月)、26ng/m3(12月)、検出されました(表1)。これらは、日本の一般都市環境中の濃度(0.080〜1.7ng/m3)を大きく上回っています。
そこで、蛍光灯安定器から実際にPCBが漏れるかどうか、調査を行いました。
(表1)室内空気のPCB濃度 (ng/m3)
|
|
|
|
PCB
|
対象地点 |
日本子孫基金事務所
|
|
|
9月
|
12月 |
|
|
|
|
1塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
2塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
34
|
3.0 |
3塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
62
|
20 |
4塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
17
|
3.3 |
5塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
6塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
7塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
8塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
9塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
10塩素化 PCB |
N.D. (<1.5)
|
N.D. (<2.0)
|
N.D. (<0.8) |
|
|
|
|
Total
PCB |
N.D. (<1.5)
|
110
|
26 |
|
|
|
|
|
対象地点: 東京農工大学工学部研究室
日本子孫基金事務所:PCB含有蛍光灯安定器を使用
N.D.: 検出限界以下
<安定器から揮発するPCB量の測定>
PCBが含まれる安定器(松下電工株式会社、昭和45年製、品名:SNZ40211HB-7)を取り外し、ガラス容器に密閉して(図2)、空気を流し、揮発したPCB量を測定(図3)。温度は、2.2,15.5,30,50℃と条件を変えてそれぞれ行っています。
<安定器からPCBが揮発することを確認>
温度が高いほど、多くのPCBが揮発するという傾向が見られました。最も条件の厳しい50℃では、1日に1台の安定器から、100万ngものPCBが揮発。安定器は、使用中に熱を帯びるため、真夏には50℃程度になることも考えられます。多くのPCBが揮発する可能性が懸念されます。
また、いずれの温度条件においても2つから5つの塩素が結合したPCB(2〜5塩素化PCB)の割合が最も高く、PCB製品(KC-300)の組成と似ているという結果が見られました。この結果によって、PCB含有安定器が、室内のPCBの発生源になっている可能性が、ますます裏付けられたと言えます。
温度変化によるPCB揮発量の変化(ng/day)
|
|
|
|
|
PCB
|
温度
|
|
2.2℃
|
15.5℃
|
30℃
|
50℃ |
|
|
|
|
|
1塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
2塩素化 PCB |
600
|
1100
|
8700
|
170000 |
3塩素化 PCB |
2000
|
3700
|
33000
|
680000 |
4塩素化 PCB |
440
|
700
|
10000
|
180000 |
5塩素化 PCB |
14
|
16
|
230
|
5900 |
6塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
7塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
8塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
9塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
10塩素化 PCB |
N.D. (<4.0)
|
N.D. (<5.0)
|
N.D. (<160)
|
N.D. (<100) |
|
|
|
|
|
Total
PCB |
3000
|
5500
|
37000
|
1000000 |
|
|
|
|
|
|
N.D. :検出限界
サンプルのPCB比較
■まとめ
耐用年数を超過し、劣化したPCB含有安定器を使用し続けるとPCBが揮発・拡散することが、実験によって示唆されました。使用中の安定器は汚染源の一つと言えます。安定器から揮発したPCBは空気中で拡散するため、空気中で検出されるPCBの濃度は低いものの、環境中に出たPCBは、生物濃縮を経て、食品などを汚染し、結局は私たち自身に跳ね返ってきます。無視はできません。
使用を続けることは、破裂事故の危険性にもつながり、さらなる被害を生む可能性を秘めています。やはり、使用中の機器を早急に回収して処理することが重要です。
|