目的
このような背景のもと、私どもは、マレーシアの都市ゴミおよび産業廃棄物集積場から土壌を採取し、ダイオキシン類の化学分析に供することにより、
その汚染の現状を把握することを目的としました。
本研究の調査地点
本研究では、2002年の10月にセランゴール、ケダ、ペナン、クアラルンプールの計4ヶ所のゴミ集積場から、土壌を採取しました。
本研究の調査地点(セランゴール)
こちらの写真は、セランゴールのゴミ集積場のものです。
ここには、都市ゴミのほか、ビニールシートやプラスチックなどの産業廃棄物が違法に投棄されており、ゴミの燃焼がみられました。
また、数名がここで働いていたほか、家畜がゴミをあさっていました。
ここから、2つの土壌試料を採取しました。
本研究の調査地点(ケダ)
こちらは、ケダの写真です。
この集積場にも、様々なゴミが投棄され、ゴミの燃焼がみられました。
セランゴールのゴミ集積場と同じで、ここでも数人がゴミを拾っており、牛がゴミを食べていました。
ここでは、3地点から土壌を採取し、化学分析に供試ました。
本研究の調査地点(その他)
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ペナンの都市ゴミ集積場は2001年にゴミの投棄が中止され、ゴミの燃焼はみられませんでした。
ここから、2つの土壌試料を採取しました。
クアラルンプールの集積場は、管理型のもので、都市ゴミのみが投棄されていました。ここでも、ゴミの燃焼はみられませんでした。この集積場から2つの土壌試料を採取し、化学分析に供しました。
これら4地点のゴミ集積場に加え、マレーシアにおけるダイオキシン類のバックグラウンドレベルを把握するために、クアラルンプールのレイクガーデンから、1試料を採取し、対照群として分析しました。
ダイオキシン類の分析は、日本の公定法に従い、ガスクロマトグラフ-高分解能質量分析計で定性・定量しました。
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マレーシアのゴミ集積場産土壌におけるダイオキシン類の残留濃度
それでは、結果に入ります。
この図は、マレーシアのゴミ集積場産土壌から検出されたPCDDs, PCDFs, ノンオルソコプラナPCBs、モノオルソコプラナPCBsの残留濃度を示しています。横軸は、残留濃度を
pg/g 乾重当りで示しています。
この結果、分析に供したすべての土壌からダイオキシン類が検出され、その汚染がマレーシアにも及んでいることが判明しました。
もっとも、高濃度のダイオキシン類が検出されたのは、セランゴールの集積場産土壌からでした。
PCDDsとPCDFsは、次いでケダ、ペナン、クアラルンプールで、レイクガーデンの土壌は低値でありました。
一方、コプラナPCBsが比較的高濃度で検出されたのは、ペナンやクアラルンプールなど、より都市部のゴミ集積場産土壌からでした。
このようなPCDD/DFsとコプラナPCBsの濃度順位の違いは、ダイオキシン類の発生源や汚染源の違いに起因していると思われました。
マレーシアのゴミ集積場産土壌におけるPCDD/DFsとモノオルソコプラナPCBsの濃度比
この図は、各調査地点におけるPCDD/DFsとモノオルソコプラナPCBsの濃度比を示しています。縦軸に調査地点、試料番号を、横軸に濃度比を示しています。
一般に、ゴミ集積場では、PCDD/DFsはゴミの燃焼時に生成されますが、モノオルソコプラナPCBsはPCB製剤由来のものが多くなります。
ですから、この濃度比が大きいということは、ゴミの燃焼によって大量のPCDD/DFsが生成していることを意味し、小さい値は、PCB製剤による汚染があることを意味しています。
赤いバーで示しているように、セランゴールとケダでは、PCDD/DFsの割合がきわめて高くなっております。これらの集積場では、ゴミの燃焼がみられたことを考えあわせますと、セランゴールとケダでは、PCB製剤による汚染よりも、ゴミの燃焼によるPCDD/DFsの生成が大きいと考えられます。
対照的に、ペナンとクアラルンプールの土壌では、この濃度比が小さくなっており、 PCDD/DFsの生成よりもPCB製剤による汚染が進行しているものと思われます。
マレーシアのゴミ集積場産土壌から検出されたPCDD/DFs残留濃度と他国の発生源周辺土壌中残留濃度の比較
こちらの図は、マレーシアのゴミ集積場におけるPCDD/DFsの平均残留値と最大残留値を、他国の発生源周辺土壌と比較したものです。
赤いバーが最大値を、青いバーが平均値を示しております。
マレーシアのゴミ集積場でみられた最大値は、ここで比較したものの中で、最も高い残留値を示しました。
また、平均値も、フィリピンとギリシャのゴミ集積場や、中国のクロロアルカリ工場の周辺土壌と比較すると低いものの、インドやベトナム、日本、スペイン、オランダ、米国より高い値でありました。
これらの結果は、マレーシアのゴミ集積場におけるPCDD/DFsの生成量は、世界的にみても大きいことを意味しています。
マレーシアのゴミ集積場産土壌から検出されたコプラナPCBs残留濃度と他のアジア途上国のゴミ集積場産土壌中残留濃度の比較
こちらは、コプラナPCBsについて、みたものです。
なお、先進諸国の土壌中コプラナPCBs残留濃度を報告した例が少ないため、ここでは、アジア途上国のゴミ集積場産土壌の値と比較しました。
PCDD/DFsとは異なり、マレーシアのコプラナPCBs残留濃度は、全体的に低く、カンボジアやインドと同レベルでありました。しかしながら、これらの値は、ベトナムより高いものでした。
先ほども話しましたが、コプラナPCBsの汚染源は、主にPCB製剤によるものであります。
これらのことから、マレーシアは、PCBsによる汚染をあまり受けていないことが考えられます。
この結果は、イガイを生物指標として用いた地球規模でのPCB汚染比較の結果とも一致しております。
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