背景
ご紹介、ありがとうございます。みなさん、おはようございます。
まず、はじめに、本シンポジュームに招待して頂いた日本地球環境基金、日本子孫基金およびCAPに深謝します。
今日の発表では、まず、PCBsとその関連物質であります塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン (PCDDs)と塩化ジベンゾフラン
(PCDFs)の基礎情報を紹介した後、私どもの最近の研究でありますマレーシアの都市ゴミおよび産業廃棄物集積場の土壌におけるダイオキシン類の汚染について、発表させていただきます。
背景:PCBsの基礎情報
ここに、PCBsの基礎情報を示しました。
PCBsはこのように、ビフェニール基に塩素が1-10個置換しており、理論上209種類の異性体が存在しております。
この化合物は1881年に初めて合成されたあと、1929年に米国で初めて商業生産が始りました。その後、トランスやコンデンサーのオイル、有機溶剤、農薬の希釈液、切削油、潤滑油、難燃剤、カーボンレス複写紙などの工業目的で、
1940年代後半から大量に生産されました。
ところが、1966年から野生動物からPCBsが検出され始めたことや、この化合物が原因と考えられる中毒事件が1968年に日本で、1979年に台湾で発生したことから、1970年代に日本、西欧、北米で、1990年代前半にロシアと東欧で、
PCBsの生産と新たな使用は禁止されました。
最近では、PCBsはPOPsの1つとして取り扱われ、2025年までにすべての使用を中止するようにUNEPから勧告されております。
規制がかかるまで、全世界でPCBsは約130万トン生産されました。こちらに示すように、その内の30%以上は、米国で生産され、次いでフランス、ドイツ、旧ソ連、イギリス、日本の順で生産量が多くなっています。しかしながら、その他の国々、例えば東南アジアやアフリカ、南アメリカにおける情報はほとんどありません。
ところで、ほとんどの生産と新たな使用が約30年前に規制されたにもかかわらず、なぜ現在、PCBsは環境汚染物質として大きな関心を集めているのでしょうか?
背景:なぜPCBs汚染は問題か?
これが、その答えです。
PCBsは、環境残留性があり、ヒトや野生動物に対し高い生物蓄積性を示します。また、水や大気を通して地球規模で拡散します。加えて、現在も尚使用されているもしくは、貯蔵されているトランスやコンデンサから、PCBsが漏洩しております。
このため、PCBsはすべての環境試料、もしくは生物から最も高濃度で検出されるPOPsの1つです。
また、PCBsは体重の減少や、塩素挫傷などの皮膚障害、肝臓毒性、免疫障害、内分泌系の撹乱、生殖・発育毒性、胎児毒性、発癌性など、様々な毒性を示します。
このため、PCBsは、現在もなお、環境汚染物質の1つとして大きな関心を集めています。
ところで、ここに示しましたPCBの毒性のほとんどは、製剤中に副産物として含まれるコプラナPCBsと塩化ジベンゾフラン
(PCDFs)によるものと考えられております。
背景:ダイオキシン類 (DXNs)
コプラナPCBsとPCDFsは、塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン
(PCDDs)と共にダイオキシン類と呼ばれております。
これらの化合物は、PCBsや有機塩素系農薬など市販されている様々な化学物質の合成時に副産物として、非意図的に生成されます。また、特にPCDDsとPCDFsは、都市ゴミの燃焼など、様々な燃焼系でも非意図的に合成されます。
これらの化合物も高い環境残留性、生物蓄積性、水・大気を通した長距離輸送性、ヒトや野生動物に対し強い毒性を有していることから、先進諸国では、数多くの調査・研究が行われ、排出源対策や環境基準の設定を行った結果、その環境汚染は、低減傾向にあることが報告されております。
しかしながら、発展途上国における汚染の情報は極めて少ないのが、現状です。
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これは、カンボジア、プノンペンの都市ゴミ集積場の写真です。
こちらは、インドの写真です。
多くの発展途上国の都市部では、このような大規模な都市ゴミ集積場が存在しています。
このような、集積場には、プラスチックや金属、紙類、木製品、生ゴミなど様々なゴミが投棄されています。
このような集積場では、メタンガスの発生に伴うゴミの低温燃焼が大きな問題になっております。
すなわち、ゴミの燃焼によるダイオキシン類の発生が懸念されます。
スラム
他の問題としまして、スラムが周辺に存在するということです。
こちらに示しますように、低所得の人々は、ゴミ集積場周辺にスラムを形成し、リサイクル可能なものを拾い集め、家の側に集積しております。
Waste Picker
彼らは、多くの時間を集積場で過ごすことから、ダイオキシン類を暴露していると思われます。すなわち、これらの化学物質によるリスクが高くなっている可能性があります。
加えて、この写真でみられますように、牛などの家畜はゴミ集積場で採餌しており、ダイオキシン類の暴露を受けていることが考えられます。
結果として、これらの家畜から作られる乳製品や肉類を食べたヒトは、ダイオキシン類の暴露を受ける可能性があります。
背景:ダイオキシン類 (DXNs)
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すなわち、アジア途上国のゴミ集積場では、大量のゴミが毎日投棄され、自然発火や人為的な燃焼によりゴミが低温で燃えているため、大量のダイオキシン類の発生していると思われます。
ですから、これらのゴミ集積場が途上国におけるダイオキシン類の主要な発生源として機能し、周辺環境を汚染していることが想像され、周辺住民や野生動物がダイオキシン類を暴露していることが考えられます。
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マレーシアの写真
このようなゴミ集積場は、マレーシアでもみられました。
これは、昨年調査した際にみかけたマレーシアのゴミ集積場の写真ですが、他国と同様にゴミの燃焼が見られました。
しかしながら、マレーシアのゴミ集積場におけるダイオキシン類汚染を報告した例は、私どもの知る限りまったくありません。
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