背景
香港では、かなり以前に設置されたトランスとコンデンサに、PCBは主に含まれています。香港特別行政区政府(以下、HKSAR)の環境保護省(以下、EPD)によって、PCB機器に関する調査が実施されました。その結果は、ここ数年で、PCB機器の数が、かなり減少したというものでした。
1987年の調査では、PCBを含むものは、トランスが167個、コンデンサでは、6,677個、また71のPCB機器保有者がいました。最近の調査では、PCBを含むトランスは既に使われておらず、コンデンサの数は296個となっています。
現在使われているPCB機器の段階的な廃止や管理に関する法令は、今のところ香港では制定されていません。(それにも関わらず、)PCB機器の数が減少したのは、PCBの危険性を所有者が認識したり、機器の使用年数が、既に過ぎたためだと思われます。
最近の調査では、3 PCB owners(現存するPCB機器の44%を所有してる)は、1〜2年でPCBを含むコンデンサを廃棄する予定でした。そのため、PCB機器の数は、かなり減少すると思われます。PCBに関する潜在的な危険性を認識の広がりによって、PCB機器の使用数が減少しています。
古いPCBを交換するために、新しく室内に設置されたトランスやコンデンサには、絶縁油として、ドライタイプまたは液体タイプのシリコン油が使われていました。また新たなPCB機器は、発見されませんでした。
- EPDによると、消費財としては、蛍光灯のコンデンサで、ノンPCB素材が広く使われてきています。また家電製品では、コンデンサの始動装置モーターにPCBを含んでいるものは、デザイン・チェンジなどで、減ってきているようです。
PCB を含むコンデンサ |
香港におけるPCBを含むトランスと機器保有者の数
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規制のコントロール
香港では、廃棄物処理(化学物質/一般)法令(the Waste Disposal (Chemical Waste)
(General) Regulation)により、PCBは「化学物質廃棄物(Chemical Waste)」に分類され、この法令と廃棄物処理条例(the
Waste Disposal Ordinance以下、WDO)より、(その処理には)届出と指示に従うことが必要とされます。またPCB廃棄物の梱包・表示・保管・収集・廃棄は、法律で規制されています。この規制は、次の事柄に及んでいます。(i)(PCB廃棄物が)訓練された者により取り扱われ、(ii)許可されたもののみにより輸送され、(iii)(「水源などのような」重要な場所から離れた)安全な建物内に保管されること。
廃棄物処理条例では、古い製品も含め、PCB廃棄物を排出したり、結果としてPCB廃棄物が排出されるような活動をするなど、いかなるPCB廃棄物を出す場合も、(化学物質廃棄物保有者として)環境保護省に届け出なくてはなりません。またその届け出をもとに、環境保護省は、最適な処理の方法を決定します。
処理するまでのPCB廃棄物の保管
環境保護省への届出が終了し、処理方法が決まるまで、PCB廃棄物の保有者は、その廃棄物を指定された場所に保管しなければなりません。その保管する場所は、次の条件を満たす必要があります。
a. |
化学物質ごみの保管以外の目的に使用しないこと |
b. |
最低3方は壁で囲まれていること |
c. |
万一漏出した場合でも、室内に有害なガスが充満しないよう、適切な換気設備が備わっていること |
環境保護省が出版している小冊子「PCB廃棄物の取り扱い・移動・廃棄に関する実施規範」において、PCB廃棄物保管地域には危険を警告するパネルを立てることなど、その他の要件があります。その規範は、環境保護省のホームページから入手することができます。
www.info.gov.hk/epd/
処理方法
推奨されているPCBの安全な処理方法は、1,100℃以上で2秒以上、酸素含有量が3%を超える条件で焼却するというものです。
通常、PCBを浄化した部品や、家電製品などに使われている小型のPCB入りコンデンサの場合は、焼却処理ではなく、埋め立てによる処理をしてよいことになっています。適切な方法で浄化したコンテナや、ポンプや熱交換機などの機器がこれにあたります。
処理をする場合には、EPDにその旨を届けて、埋め立てによる処理の適切な指示を仰がなければなりません。また、廃棄物を埋立地へ搬入る場合には、廃棄場のスタッフの指示に従います。
廃棄物“生涯データ”の管理
廃棄物の管理に関して、廃棄物の発生した時点から最終処分地に至るまでのすべての動きを記録する「ゆりかごから墓場まで方式」の管理が、導入されています。
廃棄物の保持者は、廃棄物を回収してもらうために「トリップチケット」と呼ばれる指定の用紙に記入します。そして、控えを1枚保管します。この控えが、回収を依託したことの証明になります。回収を請け負った人は、残りの用紙と廃棄物を次の請負人まで届け、控えをもらいます。廃棄物が最終処分場まで届いたらオリジナルの用紙は責任者が保管します。また、廃棄物処理に関わった者は、そのチケットを最低12ヶ月間は保管しなくてはなりません。
廃棄物量の統計
化学物質処理センター(以下、CWTC)と南東新埋立地(以下、SENT)で、1994〜2001年にかけて処理されたPCB廃棄物の量は、以下のとおりです。
処理されたPCB廃棄物
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通常PCB廃棄物は、PCBを使った機器が廃棄されるときにでます。この10年、PCB機器の保有者は、徐々にそれらを廃棄しており、残りは少なくなってきています。年間排出される10万トンの化学物質ごみに比べると、PCB廃棄物の割合は、かなり小さくなっています。
自然環境に存在するPCB
空気
香港の大気中に含まれる、PCB濃度の年間平均値は、以下の通りでした。
年/場所 |
Ng/m3 |
1998 |
0.56 |
1999 |
0.87 |
2000 |
0.65 |
2001 |
0.39 |
東京** |
20 |
スウェーデン**
|
<0.8-3.9 |
ドイツ** |
5-10 |
アメリカ** |
5 |
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** ミッチェル・D・エリクソン“Analytical Chemistry of PCBs(第2版)”(1977年Lewis
Publishers)を参照。
香港の大気中に含まれるPCBの平均濃度は、他の場所に比べると低いことが分かりました。
水
20箇所から海水サンプルを集めましたが、検出限界の0.1μg/Lでは、それらのどの場所からも、PCBは検出されませんでした。
海の底質
グラブサンプラーで採取した堆積物底質のサンプルは、30の物理的・化学的な分析をしました。それは、海中の多くの無機・有機汚染物質が、粒子状物質と関連しており、最終的に海底の堆積物となるからです。底質は、海洋の生命を支える重要な環境です。その総PCB濃度といくつかの重金属を測定しました。
PCBを使用した機器は減少していますが、高い残留性と食物連鎖による生物濃縮、またその毒性により、水生生物や人に悪影響を及ぼすため、環境中に存在するPCBへの関心は、高まってきています。
香港でこの5年間に、底質から検出されたPCBの濃度は低く、またビクトリア湾西部を除く全ての地点でも、PCBの濃度は23μg/kg以下でした。
1997〜2001年の香港における海の底質中のPCB |
堆積物に含まれるPCB濃度が最も高かったのは、クントン台風避難所のものでした。ここの数値が、唯一180 μg/kg(乾燥重量)を超えました。他の5箇所の避難所(コーズウェイ湾・ランバー海峡・ヤウマテイ・トクワワン・チャイワン)では異常値は検出されず、その他全ての避難所のPCBも、その数値は、低いものでした。
1997〜2001年香港:台風避難所の底質に含まれるPCB量 |
結論
上記の結果から、香港の環境中に存在するPCB濃度は、低いと考えられます。しかしながら、その高い残留性と食物連鎖による生物濃縮の影響を考えると、PCBに目をつぶるわけには行きません。PCB機器が、徐々に使われなくなってきていますが、環境へのいかなる汚染を防ぐためにも、その処理を厳密に監視する必要があります。PCB機器の保有者や処理に関わる人達はいうまでもなく、一般の人々も、環境や人体へのPCBの有害性を学ぶ必要があります。そして、PCB廃棄物は、適切に処理されなければなりません。
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