PCBは一般的に、地球規模の汚染物質として認識されています。
1970年以降、世界の国々はPCBの生産を中止・禁止し、またその使用を制限してきました。世界で生産されたPCBの量は、2百万tと見積もられています。中国では、1965年に生産を開始し、1974年の終わりに生産を中止しました。その間に生産された量は、1万トンに及びます。その内の9,000tの3塩素化PCBは、コンデンサの絶縁油として使用され、1,000tは、5塩素化PCB、ペンキの添加剤として使用されました。PCBの生産が中止され、PCBを含むコンデンサ75万個は、その後1980〜1990年に廃棄されました。
現在それらのコンデンサは、洞窟や貯蔵庫に、投棄されたり保管されたりしています。しかしながら、長期間の保存に伴う(容器の)腐敗や破損のため、PCBの漏出が起こっています。廃棄場周辺の土からは、高い数値のPCBが検出されています。
A.コンデンサ廃棄場周辺のひどく汚染された地域におけるPCB量のテスト結果
- この地域で採取された土壌サンプルは、乾燥重量で、788μg/kgのPCBが検出された。比較として、PCBに直接影響されていないチベットの土壌は、0.625〜3.501μg/kg(dry
wt)が、含まれているのみである。
- 汚染地域近くの川から採取した底質では、PCBの含有量は691ug/kg(dry wt)。ソングア川で採取された底質では、25.4〜70.3μg/kg(dry
wt)のPCBが検出された。
土と底質に含まれるPCB濃度の比較 |
- ソングア川から2つのサンプルを集めた。
A.0.5mの深さの底質。 B.1mの深さの底質
ソングハ川 から採取された底質(0.5mと1mの深さ)に含まれるPCB
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これら2つに含まれるPCB濃度を計測した結果、 Aでは25.8μg/kg(dry wt) が、Bでは17.5μg/kg(dry
wt)が、検出された。
このことは(土の)深さが増すにつれて、PCB含有量が減少することを示しています。またこの結果は次の2つの事を示唆しています。
1つは、PCBがかなり水に溶けにくいということ。2つ目は、土壌中におけるPCBの移動は限られているということです。
- 魚の筋肉に含まれるPCB量の測定
魚の体内に含まれるPCB (μg/kg) |
サンプル1:
現在も(PCBに)ひどく汚染された地域で捕獲した鯉の筋肉からは、691μg/kgが検出された。
サンプル2:
PCB汚染が2年前に起こり、それ以降は汚染されていない川で捕獲された鯉の筋肉からは、22.6μg/kgが検出された。
サンプル3:
PCBに汚染されていない川で捕獲された魚(シルバー・ポンフレットとドラゴンヘッド・フィッシュ)からは、0.38μg/kgと1.38μg/kgのPCBが、それぞれ検出された。
この結果からは、以下の2つのことが分かる。
a) 以前汚染されていた川で捕獲された魚には、汚染されていない川で捕獲された魚より、高い濃度のPCBが含まれている。
b) 現在も汚染されている川で捕獲された魚には、汚染されていない川で捕獲された魚の数百〜数千倍の濃度のPCBが含まれていた。
- (前出:サンプル2の)以前汚染されていた川とそこに住む魚に含まれるPCB濃度と同族体
魚と水に含まれるPCB同族体の構成比率 |
その川の水からは、2.97ng/kg、魚の筋肉からは22.6μg/kgを検出。つまり、川の水と比較すると魚の筋肉には7,000倍以上ものPCBが含まれていることを意味している。
PCB同族体の考察では、川の水から検出された2-3塩素化PCB(の含有値)は相対的に高いが、魚の筋肉には6-7塩素化PCB(の含有値)が比較的高かった。その理由としては、次の2つが挙げられる。1)低塩素化PCBは、高塩素化に比べ高い水溶性を持つが、高塩素化PCBには、相対的に高い脂溶性がある。2)低塩素化PCBは、水生生物によって容易に代謝され、排出される。しかし、低塩素化PCBと比較すると、水生生物体内の高塩素化PCBは、生物濃縮され、留まる傾向があるため。
これらの魚の筋肉サンプル分析から、5種類のより高い毒性レベルのPCB異性体が検出された。しかし、川の水のサンプルからは、たった一種類が見つかっただけであった。そのPCBは、魚では2.31μg/kgであったが、水には0.06ng/kgが含まれていた。この結果から、水生生物は体内でPCBだけでなく毒性の高いPCB異性体を高い割合で生物濃縮していると推察される。
- (前出の以前)汚染されていた川で捕獲された、メスの鯉の筋肉・肝臓・胆汁・卵に含まれるPCBの測定
魚の各組織に含まれるPCB量 |
(A) 肝臓、卵、胆汁、筋肉の順で、PCB含有量が高い傾向を示した。肝臓に含まれるPCBは、筋肉の8倍の濃度であった。
(B) ソングハ川で実施されたPCB含有量2回目の調査結果
予備的な調査では、川沿いの排水設備は、PCB汚染の直接的な原因ではなかった。
PCB汚染源が付近にない第2ソングハ川の水・堆積物・魚に含まれるPCB
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調査結果:
- (ソングハ川の)水のPCB検出率は31.5%。その平均濃度は、0.013ppb。
- 底質のPCB検出率は、100%。濃度は0.12〜1.04ppb。平均値は、0.62ppb。
- 魚のPCB汚染割合は、100%。濃度は、6.4〜214ppb。
川の水に含まれるPCB濃度は、高くないが、魚にはかなり高い濃度でPCBが含まれていた。生物濃縮の割合は、10,000倍を超えるものであった。
- 魚の様々な部位の分析では、肝臓・脳・それ以外の多く脂肪が含まれる器官に、著しく高い値のPCBが含まれていた。
(C) 自然の環境のまま保全されているチベットの南カバワ丘陵地域における汚染の状況
チベット南カバワ丘陵地域のPCB濃度 (ppb)
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調査では、川の水にも氷水からも、PCBはほんの少量検出されたのみであった。氷水からは、0.0105ppbが、川の水からは0.008ppbのPCBが検出された。このように氷水のほうが、川の水より若干高いPCBを含んでいた。南極の氷水・湖水・海水の(PCB濃度の)データと比較すると、それらより高いPCB汚染を示していた。
海抜2,600〜4,000mにある草生した湿地帯の異なるタイプの土から、様々なレベルでPCB汚染が見つかった。その値は、0.113〜5.934ppbの範囲であった。
PCB汚染は、広範囲にわたって環境を汚染しており、われわれ全員がこのPCB問題を真剣に取り組む時期であるということを、この調査結果は明示している。
最近、政府はPCB汚染の問題を解決するため、より踏み込んだ方策を講じた。
- 国の危険物質“National Hazardous Substances”としてPCBを指定し、その管理のため新しい法令を作った。
a. |
全てのPCB関連廃棄物は、特別な処理をする |
b. |
工場がPCBを使用する際は、関連機関へ届け出る |
c. |
PCB廃棄物が中国領域内を通過することを禁じる |
- PCBが廃棄物に含まれる量の許容値を50mg/kgに設定する
- 50-500mg/kgのPCBを含む廃棄物は、指定された廃棄場か埋立地で処理すること。また500mg/kg以上PCBを含んだ廃棄物は、高温焼却技術を使用して、処理されなければならない。適切な処理が行なわれていないPCB廃棄物は、関連機関の指示に従い、まとめて安全に指定された場所で、保管・封印されること。
- PCBを含む中古製品の輸入を規制するために法律をつくる。許容値を超えるPCBを含むものに関しては、輸入を許可しない。
中国におけるPCB汚染の脅威を食い止めるために、今後は、これ以上の法律や規制が制定され、より厳しい対策がとられるであろう。