いつどこで地震が起きてもおかしくない日本列島。
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住宅より揺れに弱い原発(PDF 660KB 記事全文)
住宅より揺れに弱い原発
もっとも安全性が求められる原発の耐震性は、住宅の2分の1から8分の1以下でした。
三井ホームの市販住宅は5,115ガルに耐えられるのに、九州電力の川内(せんだい)原発と玄海原発の耐震性は620ガルしかありません。
ガルは地震の揺れの強さを表す単位で、数値が小さい原発は耐震性が低いのです。
電力会社は「原発は直接固い岩盤に建屋を建てているため、施設の揺れの増幅も考慮して、
ハウスメーカーの値と単純に比較することはできない」と反論しています。
しかし、1ガルは毎秒1㎝の割合で速度が増すことを示す、地震観測では震度以上に客観的な数値です。
原発の耐震性が、住宅より大きく劣っているのは、まぎれもない事実です。
大事故が起これば、その地域だけでなく、日本全土が壊滅しかねないのに、原発の耐震性が、どうして放置されているのでしょうか。
倒壊しなかった一般住宅
東京電力は否定していますが、東日本大震災で破損した福島第一原発の、非常用発電機系統や緊急炉心冷却装置は、
津波に襲われる前の震度6の地震で、すでに破損していたと言われています。
震度とガルの関係は、震度7が1,500ガル以上、震度6強が830.1,500ガル、震度6弱が520.830ガルです。
福島第一原発の耐震性(基準地震動)は600ガルでしたので、震度6で装置や機器の一部が破損されていて当然なのです。
同じ震度6の地震に襲われたにも関わらず、福島の住宅はほとんど倒壊しませんでした。
一般住宅は建築基準法で震度6.7の地震に耐えられる建築が義務付けられているので、これも当然です。
住宅は無事・原発はアウト
表は、現在再稼働中の原発10基、再稼働認可済みの原発7基とハウスメーカー5社の一般住宅の耐震性を示したものです。
原発の耐震性の低さは歴然としています。
原発の耐震性は、最高でも1,209ガルなので、1, 300ガルの地震が襲った場合、
まわりの一般の住宅は無事なのに、原発は施設が破損され、福島第一原発と同様の原発事故が起きることになります。
敷地内のすべての施設が
頑強に建設されている原発建屋が、木造の一般住宅よりも耐震性が低いことは考えられないと思われるかもしれません。
しかし、原発と住宅とでは耐震性の概念がまったく違います。
住宅は、建物が倒壊せず、中にいる人々の命が守られれば、停電しようが、水道が止まろうが、問題はなく、
建物が倒壊するかどうかが耐震性の基準です。
それに対して原発は、福島の原発事故で明らかになったように、
①「止める」(核分裂反応の停止)
②「冷やす」(ウラン燃料の冷却)
③「閉じ込める」(放射性物質)
の「安全三原則」のうちの一つでも欠ければ、大事故へつながってしまいます。
つまり、頑強に建設された格納容器や原子炉建屋だけでなく、
非常用発電機や敷地内の水道管、配線設備などの全ての施設・設備が、破損せず、正常に作動するかどうかが、耐震性の判断基準なのです。
これを踏まえた上で、地震に対する電力会社とハウスメーカーの姿勢を比べます。
住宅は全国どこでも
原発の耐震性を大きく上回るハウスメーカーは、全国どこでも住宅建設を手掛けなければならないことから、
耐震性に関する論理は、極めて明快です。
「5,115ガル」と突出した耐震性を誇る三井ホームの事例を紹介します。
地震大国の日本では、どこでも大地震が起こることを大前提としています。
世界の地震観測史上最大値と言われる「4,022ガル」(2008年岩手・宮城内陸地震)を上回る衝撃を受けても住宅の倒壊が生じないように、
「震度7の地震に60回」も見舞われる過酷な3日間の実験を経て、木造2階建て住宅の「5,115ガル」を実現しているのです。
その実験映像はユーチューブで公開しています(https://youtu.be/4D-Rd1CfVP0)。
住友林業も同じです。2階建てよりも負荷の高い3階建て木造住宅で、
こちらも大地震を再現した246回にも及ぶ振動実験を経て、「3,406ガル」の耐震性を実現しています。
特別扱いの原発基準
地震に対する対応策は、新幹線や高速道路などの公共工事や超高層建築の建設でも、
最悪の事態を想定して、どこでも技術的に可能な限りの耐震性を追求し、それぞれ全国一律の規制を設けています。
それなのに、原発だけが原子力規制委員会との個別検証で、それぞれの建設条件をもとに基準を定めているのです。
もちろん、建設地盤の強度や活断層の有無も検証が重要です。
しかし、大地震がどこでも起こり得るという日本の実情を考えれば、原発は、これまでの最大値「4,022ガル」を上回るか、
一般住宅で実現している「5,115ガル」以上と規定すればいいのです。
低すぎる耐震性を認めていては、いつ原発事故が起きても不思議ではありません。
規制委と電力会社の論理
低い耐震性でも問題はないとする電力会社の論理をひとことで言えば、「原発建設地では大地震が起きない」ということです。
人を馬鹿にしたような答えですが、福井地裁裁判長として、2014年の「関西電力大飯原発の運転差し止め判決」を下した
樋口英明元裁判長は、裁判の審理過程を振り返って次のように述べています。
「(原発は安全だとする)関西電力の主張は、(地震は起きないとする) 地震予知ができると言っていることにほかならず、そのように断言できるはずなどない」
裁判の審理が進む中で、最終的に原発の安全性を立証するには、もう「地震は起きない」と言わざるを得なくなってしまったのです。
原子力規制委員会は、
@地盤の強度、断層の有無など、それぞれへの地震対策
A津波や火山活動などの自然災害
B航空機事故やテロ対策
C電源の2回線確保や通信設備の強化
などの個別案件ごとに詳細な検証を重ねて、原発の安全性を検証しています。
しかし、極論すれば「原発では大地震が起きない」と保証するのが原子力規制委員会と言えます。
電力会社も、原発が1,000ガルを超える地震に襲われれば、事故が起きかねないことは認識しています。
そのため、低い耐震性で原発が安全と主張するには、「原発建設地に大地震は起きない」とする原子力規制委員会の
「地震予知」がどうしても必要なのです。
原発建設地では予測値を超える地震が起きないと、本当に断言できるのでしょうか。
地震予知にたよる危うさ
樋口元裁判長は、著書『私が原発を止めた理由』の中で、
「700ガル以上の地震動をもたらした地震は2000年以後の20年間だけで30回、1,000ガル以上の地震動をもたらした地震は17回ある」と述べています。
原発の安全性に影響を与える700ガル超、震度6以上の地震が平均すると1年に1.2回、全国のどこかで起きているのです。
全国のどこでも、いつ震度7クラスの大地震が起きても、おかしくはないという事実があるにもかかわらず、科学的根拠のない楽観主義の下で、
原発再稼働が進められていることになります。
正確に言えば、「地震が来ない」ではなく、「千年に1度か1万年に1度なので、まず起こらないだろう」であっても、
原子力規制委員会による「原発建設地は地震が来ない」というのは、危険な妄想です。
画期的な運転差し止め判決
この原発の耐震性問題に正面から切り込んだのが、2014年の福井地裁による「関西電力大飯原発の運転差し止め判決」でした。
この判決が画期的だったのは、樋口裁判長(当時)が裁判の争点を、原子力規制委員会の新基準ではなく、原発そのもののあり方と、
その安全性に絞ったことです。
それまでの原発裁判では、「原子力政策は高度な政治的判断に属する事柄」と称して、原発そのものの是非を裁判の争点とすることを避けたため、
原発の設置基準が原子力規制委員会の新基準に合致しているかどうかが審理の焦点となっていました。
その結果、審理内容が細かい高度な専門技術訴訟に陥ってしまい、原発の本質が裁判の俎上(そじょう)に載ることはありませんでした。
樋口裁判長は、それらの原発裁判と一線を画して、裁判の争点を原発問題の本質である「原発の危険性」に絞り込んだのです。
判決では、
「深刻な事故が起これば多くの人命や生活基盤に重大な被害を及ぼす事業(原発)に関わる組織には、
被害の大きさに応じた安全性と高度の信頼性が求められる」
「人の生命を基礎とする人格権は憲法上の権利であり、我が国法制下では、これを超える価値はない」
として、原発の危険性を具体的に指摘、運転差し止めを言い渡します。
原発稼動がもたらす恩恵に関しても、
「原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、国富の流出や喪失というべきではなく、
豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、それを失うことこそが国富の喪失である」
と言い切っています。
この運転差し止め判決が、その後の原発裁判と原発論議に与えた影響の大きさは計り知れません。
原発の運転は許されない
樋口元裁判長は、原発の運転が許されない理由について、
① 原発事故のもたらす被害は極めて甚大。
② 原発には高度の安全性が求められる。
③ 地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない。
④我が国の原発の耐震性は極めて低い。
⑤原発の運転は許されない。
と極めて分かりやすい言葉で語っています。
原発の耐震性が、一般住宅よりもはるかに劣っている事実がわかったからには、日本では原発を廃止するしかありません。
文:小沼紀雄(文筆家)
月刊『食品と暮らしの安全』2021年11月号No391 掲載記事(全文)
住宅より揺れに弱い原発(PDF 534KB 記事全文)