第8回アジア太平洋臨床栄養学会
         国際学会の講演(日本語原文)


ウクライナ調査の成果を2013年6月12日に国際学会で講演。
第8回「アジア太平洋臨床栄養学会」は、
日本臨床栄養学会、日本栄養改善学会、日本病態栄養学会、日本抗加齢医学会、日本栄養・食糧学会などとの共催で、
後援が農林水産省、厚生労働省。
痛がっているウクライナの子や親を救って、微量の放射能汚染で被害が出ると証明したので、
基準を厳しくして、被害を防ごうと話しました。
 英語での講演はYouTubeにアップしています。



 6.12 第8回 アジア太平洋臨床栄養学会発表・日本語原文 ⇒PDF(249KB)


 事故から10年後のウクライナの放射能汚染図では「一般地域」とされ、現地では「非汚染地域」と言われている@の地域を2012年5月に私は取材していた。
地域には複数の村があるが、汚染図の区分が同じで距離が近いので、わかりやすいように村名ではなく、A・Bと略して話す。

 ①Aに住むエフゲーニャは、2009年5月生まれの女児。
エフゲーニャの母親は、チェルノブイリ原発事故のときは1歳で、原発から18kmの村で暮らしていた。
事故後、すぐ家族とともに親戚の家へ逃げ、86年9月に200km南の①Aへ移住してきて、それからは①Aに住んでいる。
3歳の女の子が「足が痛い」と言うので、私は足の痛みに関心を持った。

 それから3日後、私たちはチェルノブイリから120qほど西の②の地域へ行った。
②は放射能で汚染された地域だが、現地では汚染の少ない「第3種汚染地域」と呼ばれている。
チェルノブイリから125q西にある②Aの学校を突撃取材し、校庭で遊んでいた子どもたちに集まってもらい、「足が痛い子」と質問すると、半数近くの子が手を挙げた。
そこで学校周辺の20ヵ所で空間線量を測定すると、平均0.115μSv/hだった。これは、年間1mSvだから、高いとは言えない線量である。
あまりに常識に反する実態があったので、それを見てもらおうと、4カ月後の9月末に19人のツアーを組んでウクライナへ行き、再び②の地域を訪れた。
チェルノブイリから110q西の②Bの学校で、まずクラス(=学年)ごとに挙手による調査を行った。
次は、前回訪れた②Aの学校で同じ調査を行った。

②AB学校の1〜7学年を対象とした調査結果は、
足が痛い子   7割
頭が痛い子     6割
のどが痛い子   5割
(3ヵ所が)痛くない子 4割

だった。

②Aの学校で用意していただいた食品を検査機関に持ち込んで、セシウム137を検査すると、
ベリー 25(Bq/㎏)
ライ麦 10
牛乳 5
チーズ 2
ポテト 2

この地区の食事の平均値は5〜10 Bq/㎏と考えられるが、食品検査の年次報告を入手すると驚くような数字が並んでいた。
汚染度が最も高い食品の最大値(Bq/㎏)は、野生キノコの76300。
続いて、野生動物の肉15500、野生ベリー5200、ハーブ4900、ハチミツ3780、自家製牛乳は433。
野生動物の肉はめったに食べないと言うが、この地域は食糧の自給度が高い。野生の食材を採ってきて食べている人は、障害が出ていて当然だ。
実は前回の訪問後、病状が放射能被害かどうかを、治して検証実験していた。

 チェルノブイリから135㎞西の②Cに住むナタリア(Natalia Ostapovich)は1986年1月15日に②C地区で生まれた。2012年7月までは②Cに住んでいた。
7歳から甲状腺異常で2級。腎臓疾患、慢性扁桃腺炎があり、15歳ごろから足が痛くなり、常に腕や肩や全身が痛く、頭痛もするようになっていた。 さらに、心臓疾患でニトログリセリンを常時、持ち歩いていた。
このナタリアに、非汚染地域へ保養に行ってもらい、健康状態がどのように良くなるかを記録してもらった。
ナタリアは、非汚染地域の保養施設を転々として70日を過ごし、75日後に、私たちに報告をしてくれた。
通訳はナタリアに以前会っているが、その通訳が驚くほど明るくて、別人のようになってナタリアは現れ、
「45日目まで症状はまったく改善しなかったが、そこから改善を始めて、54日目にはかなり良くなり、70日目にはまったく症状がなくなっていた」と語り、
笑顔で「ほら、どこも痛くないのよ」と言い、「ニトログリセリンも持ち歩いていない」と語った。
その後、ナタリアは②Cからキエフに移り、今も痛みが出ず、健康に暮らしている。

②の地域で、「悪い」と訴える人が多かった臓器は、腎臓、心臓。
「痛い」と訴えた部位は、足、腕、背中、頭である。
ナタリアは、このすべてが悪く、痛かったが、すべての症状が消えた。
これらの臓器、神経、筋肉は、細胞分裂をほとんどしないので、その細胞が放射線によって死んだり、働かなくなって、組織が機能不全を起こし、 警告として痛みを発していると、私は推定している。
ナタリアが良くなったのは、放射能の少ない食事が主原因と考えられるが、保養所の治療の効果があった可能性も否定できない。
そこで、同じ村に住み続けながら、食事から放射能を減らすモニター実験を、「非汚染地域」と言われている①Bの村で行った。
この村には、チェルノブイリ原発から35km圏にあった村の人が、1992年に移住してきている。その移住者の家族はもちろん、在来家族の子も親もさまざまな健康障害で苦しんでいた。
日常食品の放射能汚染を検査すると、キノコは平均 210 Bq/㎏で、他の食品は 10 Bq/kg以下だった。後に川魚が平均8.6Bq/㎏という資料が見つかったので、 キノコと川魚を食べない代わりに、隣村の肉と牛乳を無償提供し、体調の日記をつけてもらうプロジェクト調査を行った。
スタートは2012年11月で、終了は2013年3月である。
その間の2013年2月に、①Bで食べられている37メニューを、検出限界を1.7〜1.8Bq/㎏に下げてセシウム137を再度検査。 ところが、すべて不検出で、数字を得られなかった。キノコと川魚以外は放射能汚染が非常に少ない食事の地域ということになる。

 4カ月ほどのプロジェクト調査の結果、9家族全員の体調が良くなった。
うち7家族は、日常の食事の食材を、放射能の少ないものに置き換えただけだから、放射能による食品汚染で症状が出ていたことが証明されたといえる。
13歳のオリガは2週間に1回ぐらい鼻血が出ていたが、11月以降は3月まで1度も鼻血が出ていない。
母のタチアナは、週2〜3回めまいと頭痛が、2週間に1回に減った。ひどいときは2時間もめまいが続いていたのが、時間が短くなり、症状が軽くなった。
 13歳のナスチャは、頭が痛くて薬ばかり飲んでいたが、効かなくて眠れず、つらかった。この頭痛は40日後に消えた。
ナスチャは、眠ろうとすると、手足も痛くなり、激痛になって眠れないこともあったが、50日後に痛みはほぼ消えた。
よく眠れるようになってナスチャは元気になり、顔色が黄色からピンク色になった。
12歳のヤーナは、生まれつき湿疹やシミが多く、母親ですら見たくないと言うほどひどいサメ肌で、ヘルペスによる水泡もできて苦しんでいた。
ウクライナでは、被爆者の子はサメ肌が多いと言われている。
同年代の子は彼女を避けていたが、肌のトラブルがすべて解消し、きれいな肌になって友人ができ、ヤーナは明るくなりつつある。
2012年10月1日にヤーナの両親から話を聞いたとき、魚と昆布の粉末と超高純度ワセリンを手渡した。 この粉末は日本で食べられている天然だしの「調味粉」で、原料はイワシ、飛魚、昆布だけ。イワシは福島原発事故の前にとれたものだ。
「調味粉」は、カリウムとカルシウムを多く含むので、同族元素で化学的性質の似たCs137とSr90の吸収を減らすとともに、体外排出を促進させる。 また、亜鉛を多く含むので皮膚炎に効果があるかもしれないと考えて、毎日、食事に入れて食べてもらった。
ヤーナは、医者からもらった軟膏剤を使っていたが、薬効成分のまったく入っていない超高純度ワセリンに切り替えた。
それから1カ月後の11月1日から、他の家族とともに、キノコと川魚を食べないようにしたら、医者が治せなかった肌のひどいトラブルがすべて解消した。
痛かった足と頭が痛くなくなったのは、痛みは放射能の影響だったと考えられる。
サメ肌と皮膚障害も、放射能の影響だった可能性が高いが、それまで食べたことのなかった天然だしを食べ、薬害のないワセリンを使ったので、放射能を減らしたから治ったとは証明できていない。
 「7歳のときに左腕が自由に動かなくなり、それから右腕も足も自由に動かなくなって、11歳の今は肢体不自由児のようになったが、 医者は原因不明で治せないと言い、症状はだんだん悪くなっている」と、10月1日にミーシャの両親から聞いた。
このとき、「調味粉」を手渡した。これを食べていたところに、11月からキノコ、川魚の代わりに、牛乳、肉を食べるようにしてもらった。すると、動きが少し良くなったと報告が入った。
3月に会ってみると、痛かった足、頭、首は痛くなくなっていた。ただ、体に固まっている部分があったので、私がマッサージしてほぐすと、かなりバランスよく歩けるようになった。
このミーシャの映像を27秒間、ご覧下さい。


調味粉と私のマッサージが、肢体不自由児のようなミーシャの動きを治したとは、とうてい考えられないので、食事に含まれていた放射能で神経障害が出ていたのが、 放射能が体内から減ったので回復したと考えられる。
次は、汚染度が高い地域で、食品を替えるだけで、体調が良くなるかどうかを検証することにした。
保養に出したら70日で症状が消えたナタリアと同じ②Cに住む祖母3姉妹の家族に、①地域の肉を2013年3月1日から無償提供を始めた(資金が尽きたので6月で終了)。
牛乳は、放射能の少なそうなものが手に入らなかったので、提供していない。
5月24日、3家族全員の症状が軽くなり、健康状態が顕著に改善を始めていると報告が入った。

低レベルの地域 食品に含まれる放射能が、どのレベルで人体に痛みを発するのか、その最小作用量を突き止めるため、2013年3月20日から23日まで、①からさらに低レベルの地域を回り、 ②③④⑧では学校の生徒に挙手での調査を行った。
この地域は、骨や歯に悪影響が出るフッ素で汚染されているが、その他の環境汚染は少ない。
頭痛の子と親が多数いたのは、汚染が特に少ない地域⑧である。
10年、11年生(15〜17歳)と、その父母の計25人に健康状態を聞くと、

足が痛い人   1人(11歳から)
頭が痛い人   18人
自律神経失調症の人   5人
鼻血が出る人  13人
風邪をひきやすい人   12人
風邪でよく学校を休む人 8人
問題がない人 0人

だった。
⑧の地域で、この年代の子が1日に食べている食事を村長の家で作ってもらい、 Cs137を検査すると、1.1 Bq/㎏だった。日本の一般食品の基準は100q/㎏だから、非常に低い値で健康に影響が出ていたことになる。
我々が現地調査で学校の生徒に質問したABCでは、足や頭が痛い子には出会わなかった。この②④は10 kBq/㎡で、頭の痛い子が多かった⑧は2kBq/㎡。
つまり、5倍ほど空間線量の高い地域で頭痛の子がいなかったことになる。
このように矛盾した理由は、土中のK量にあると考えている。
作物の必須ミネラルであるKが、土中に必要量を満たしていないと、作物は必死になってKを吸収しようとする。
すると、同族元素で化学的性質が近いCsを吸収する量が桁違いに増え、作物はCs137を数百倍多く吸収する。
つまり、Cs137の汚染レベルが低い地域では、土の汚染レベルより、K量の方が健康へ大きな影響を与えることになる。
K肥料は、福島では、撒くことを希望した農家には無料で提供されている。
放射能汚染と被害が一致しないもう一つの理由は、最近、食品のSr90汚染が増加してきていることだ。
私は、筋肉の痛みはCs137が、神経系の痛みはSr90が主犯と推定している。

汚染地図は、ガンマー線を出すCs137の測定データを基に作られている。Sr90はベータ線を出すので、ほとんど測定されていないが、 ⑦⑧が属する州の州都ポルタヴァ市では測定し、推移図を作成していた。
推移図では、Cs137はチェルノブイリ原発事故から5年後ぐらいまでは減り、その後、一時的には増えても、15年前からは着実に減少している。
Sr90は、チェルノブイリ原発事故後は大きく減ったが、その後は減らず、若干の増加傾向がみられる食品もある。
今回の取材中、線量の低い地域にある⑦の学校で校長にインタビューすると、「子どもの健康がだんだん悪くなっている」と話した。
この地域では、最近の健康悪化の原因にSr90がかかわっている可能性がある。
我々の現地コーディネータのタチアナ女史が、この冬に①〜⑧の地域を回って、子どものアンケート調査を依頼してきた。
いち早く実施したのは④のロゾヴァ市では、ときどきか常に足が痛い子が18%、ときどきか常に頭が痛くなる子が38%、風邪でよく学校を休む子は53%もいた。
これは異常な高率で、我われが治して検証した放射能が原因としか考えられない。
子どもの健康状態の悪化が、食品に含まれる放射能が原因とは、放射線の専門家も、ウクライナ政府も気づいていない。

 では、これからどうすればいいのか。
食品の許容基準は、まだ放射線の人体症状が見つかっていない1Bq/㎏に変更する必要がある。
1.1Bq/㎏の食事を、毎日2.15㎏食べている子は、年間0.011mSvの被曝を受けていることになる。
これまで、症状が出たと確認された最低線量は広島・長崎でガン死が増えた100mSvだった。
既知最低作用量の9000分の1で、ヒトに「痛み」が起きていたので、放射線による人体影響の科学は大間違いをしていたことが判明した。
科学が、大多数の被害者を切り捨てる役割を果たしていたのである。
微量の放射能で汚染された食品による人体影響の科学は、低線量汚染地域の子どもの健康状態と、彼らが食べている食事の放射能を精密に調べて、基礎から再構築する必要がある。


≪第8回アジア太平洋臨床栄養学会6月12日講演の日本語原本。英訳するときに短くしたので、当日の講演では話されていない部分も少しはある≫


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