食品と暮らしの安全基金代表 小若順一
野田首相が、関税ゼロを目差すTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉への参加を決めたので、賛成・反対論から、交渉の中身を問う時代に入りました。
「農業」は、TPP加盟でどうなっていくのでしょうか。
2011年3月号に書きましたが、オーストラリアの1万ヘクタール前後の農地を持つ農家では、敷地に入って住まいに着くまでに車で10分前後かかるのが普通でした。
こんな農家と無条件で競争すれば、日本の農家が負けて、食糧生産が減ることは明らか。 勝てるという農家は、すき間を狙っているか、相手を知らずに強がりを言っているにすぎません。今後は、どのように農業保護政策を行うかが焦点になります。
日本農業の最大の弱点は、高齢化が進んでいること。5年もたてば70代の農家は、TPPとは無関係に農業をやめざるを得なくなります。 今でも、主をなくした耕作放棄地が目立つのに、それがもっと増えるわけです。
農業が急激に縮小していく状況なのに、農業再生に有効な政策はとられていません。 若者が農業に参入しやすいように規制を緩和しながら、農家への手厚い保護政策を導入すれば、食糧自給にプラスになります。
TPPによって、コメの700%の関税や、コンニャクの350%の関税は引き下げられます。 その一方で、コメ消費量の8%輸入義務を撤廃できるので、うまくやれば、コメを守ることができます。
「安全ルール」は、主にアメリカとすり合わせを行うことになります。 「ポストハーベスト農薬」は、アメリカの圧力で、すでに残留規制が開放されています。
大阪冬の陣を終え、内堀まで埋められたのが現状と考えればいいでしょう。 ここで本丸を落とされると、日本国内でもポストハーベスト農薬が使えるルールになります。
ニセ米袋事件で明らかなように、悪徳業者がいっぱいいて、農水省にも犯罪をそそのかす官僚がいるのですから、 日本の農作物も、農薬に漬けて保存性をよくした野菜や果物が主流になっていきます。
そんなことにならないよう、ポストハーベスト農薬の推進派に対してどう戦うか、その戦略戦術を国際的に考えねばならなくなったと思っています。 TPPで関税をゼロすると国の税収が減り、消費税を上げざるをえない状況になります。それなのに、消費税アップに反対しながら、TPPには賛成する人がいます。
「槌田貿易経済理論」によれば、国が最も富むのは、関税収入が最も多い「最適関税」をかけた自由貿易で、「関税ゼロ」は貿易商だけが儲かる、とされています。
現実に、自由貿易の恩恵を受けるアメリカ、日本など先進各国の財政は借金だらけ。 それなのに、貿易商の機能をもつ多国籍企業は、あり余る利益を上げています。
槌田理論が正しいことは明らかなので、貿易や経済の基礎理論についても、わかりやすい解説書を作って、TPP交渉に影響を与えたいと考えています。
2011年12月1日発行 No.272より