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2003 PCB シンポジウム (マレーシア)

要約
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マレーシアのゴミ集積場産土壌におけるダイオキシン類の汚染

渡部真文、田辺信介
愛媛大学 沿岸環境科学研究センター

新居田真美
日本子孫基金

Hatijah Hashim
Consumers Association of Penang (CAP), マレーシア

ポリ塩化ビフェニル(以下:PCBs)は、米国など先進国を中心に全世界で130万トン生産・使用されたが、この物質を原因とするカネミ油症事件やユンチェン油症事件が起こり、先進国では1970年代に、旧社会主義諸国では1990年代前半に生産と新たな使用が規制された。しかしながら、その環境残留性と生物蓄積性に加え、トランスやコンデンサーに使用されたPCBsの漏洩が続いているため、汚染と影響の長期化が最も懸念されている環境汚染物質の1つである。PCBsの毒性は、塩素挫傷などの皮膚障害、体重減少、肝機能や免疫・生殖機能障害、発ガン性、神経系の撹乱などが報告されているが、その多くは、平面構造をとり易いコプラナPCBsや副産物として含まれるポリ塩化ジベンゾフラン (以下:PCDFs)によるものと考えられている。

コプラナPCBsとPCDFsは、ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(以下:PCDDs)と共にダイオキシン類と呼ばれているが、PCB製剤など有機塩素系物質の合成時や廃棄物の燃焼過程で非意図的に生成する強毒性の環境汚染物質である。このため、先進国では多くの調査が行われ、排出源対策や環境基準が施行された結果、その汚染は低減傾向にある。ところが、ベトナムの枯葉剤散布などの事例を除けば、アジア途上国におけるダイオキシン類の発生と汚染実態に関する研究例は極めて少ない。これらの地域の都市周辺には大規模なゴミ集積場が遍在し、管理の悪さから自然発火するなどゴミが低温で燃焼している。このため、ダイオキシン類が生成し環境を汚染していることが推察され、周辺の生態系や隣接する住民への暴露と影響が懸念されるが、このようなゴミ集積場におけるダイオキシン類の汚染の調査・研究例は、きわめて少ない。このような背景から、本研究ではマレーシアの都市ゴミ集積場におけるダイオキシン類汚染の現状を明らかにすることを試みた。

土壌試料は2002年10月に、クアラルンプールおよびペナンの周辺のゴミ集積場で採取した。また、クアラルンプールの公園から土壌を採取し、対照群とした。ダイオキシン類の分析は既法に従った。

分析に供したすべての土壌からダイオキシン類が検出され、その汚染がマレーシアにも及んでいることが判明した。高い濃度でダイオキシン類が検出されたのは、クアラルンプール郊外の違法ゴミ集積場の土壌2点からで、510pg-TEQ/g (乾重当り)と3,300pg-TEQ/gであった。これらは、日本の環境基準値 (1,000pg-TEQ/g)や調査指標値 (250pg-TEQ/g)を超える高値であり、ゴミの燃焼に伴う相当量のダイオキシン類の発生が示唆される。また、ペナン周辺のゴミ集積場の土壌3点からは7.8pg-TEQ/gから48pg-TEQ/gのダイオキシン類が検出された。一方、クアラルンプールの管理型ゴミ集積場では,対照群の公園土壌と同程度の低レベルであり、ゴミの管理を行うことでPCBsを含むダイオキシン類の発生を抑えられることが推察された。

PCBsやPCDDs、PCDFsは一度環境中に放出されると,その半減期は数年から数十年と長く、また、発生源周辺だけでなく地球規模での汚染をもたらすため、これら環境汚染物質の排出源対策は急務と考えられる。



「私たちが共有する海」
その認識を高めるために

カナダのPCBと生物濃縮の指標としてのシャチについての海洋教育者の見解


ジャッキー・ヒルダリング
アースリング・エンタープライズ

カナダはPCBの製造を1977年に禁止、POPsに関するストックホルム条約には、世界でいち早くの批准国となりました。しかしカナダは、有効な除去作業を行うのが困難な状況にあります。遠距離早期警告線(DEW(Distant Early Warning)Line)が最も驚くべきことに特筆すべき障害となっているのです。POPsはバッタのように飛び跳ねる性質を持っています。そのためカナダでは北極圏の生物が、世界中から集まるPCBに汚染されるため、他より高濃度で汚染される傾向にあります。その象徴は、生物濃縮と、PCBの世界規模での影響を一番証言している北西太平洋のシャチ(Orcinus orca)でしょう。彼らはカナダ国内で使用されたPCBのみならず、アジア諸国も含め世界各国に起因する新たな汚染にもさらされています。海洋科学研究所(カナダ・ブリティッシュコロンビア州のシドニーにある)のピーター・ロス博士は、シャチを「汚染された惑星の番兵」として取り上げています。ロス博士の脂質の組織検査についての調査では、カナダ西海岸に現れるシャチで、移動性と定住性のもののPCB濃度が明らかになっています。魚類をエサとする定住性のシャチの中では生息地の違いによって大きな差が見られました。北方に住むシャチのオスからは40ppmのPCBが検出されたのに対し、北方よりも都会である南方に住むシャチのオスからは150ppmものPCBが検出されたのです。南方の生物もアジアからの海流の影響を大きく受けていると考えられます。哺乳動物をエサとしている移動性のシャチのオスからは、食物連鎖の頂点に近いものを食することに結果した生物濃縮を裏付ける、250ppmという驚くべき濃度が検出されました。北西太平洋のシャチは、おそらくこの地球上で最も汚染された生物でしょう。海の恩恵をともに享受している彼らのためにも、今こそ私たちはこの問題をきちんと捉え、責任を取らなくてはなりません。


有害な廃棄物としてのPCB
―オーストラリアのケース―

ケート・ヒュ−博士
・・・
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この報告は、オーストラリアにおいて、国としてのPCB廃棄物の管理計画が発展してきた歴史的経緯とPCB汚染の現状に関するものである。

1980年代に、オーストラリアの市民は、戦後あれほど歓迎された工業的成長が、汚染を生み出したことを理解し始め、1980年代半ばには、有害な化学廃棄物とその処理方法をめぐる問題が、環境団体にとって大きな議題となった。その当時、オーストラリアには、有害な化学廃棄物を受け入れられる適切な処理施設が存在しなかった。更にいうと、政府も専門筋も有害な廃棄物の問題に関して十分なノウハウをもっていなかった。1987年のNGOのレポートのなかで、“niche”テクノロジーが、有害な廃棄物の様々な要素へ対応策として推進されたが、1990年代初頭までは、国内のPCBを含む有害な廃棄物をどうするべきか、という問題は解決されないままであった。

Commonwealth Government(オーストラリア政府)は、秘書官と2つの委員会から成る管理機構を設立し、数年後National Strategy for the Management of Scheduled Wastes(計画的廃棄の管理に関する国家戦略)が、さらに後にPCB Management Plan(PCB管理計画))が作成された。この計画の整備のプロセスにおいて、市民への公聴が中核的役割を果たし、このことは、重要な問題が深く論議されることにつながった。そしてこの計画に、職場での安全性や様々な形態の廃棄物の扱いに関する基準なども含まれることとなった。

この期間に、種々の廃棄物に対して数々の技術が試行され、1996年には西オーストラリアでPCBやその他の有害な化学廃棄物の処理技術が実用化された。数年に及ぶ議論と調査と市民公聴会、そして何よりも1996年11月に策定されたPCB Management Plan(PCB管理計画)の成果である。

PCB Management Plan(PCB管理計画)が着手されてから、5000トンのPCBが分解処理され、1700トンが分解処理に備えて保管されている。3500−7000トンが紛失して環境に流出しており、他に計5000−9000トンがあるとされている。

現在、PCB廃棄物に関しては、製造物関係に注目が集まっていて、土や底質などの環境汚染にはあまり目が向いていない。健康への影響や安全性が深刻に懸念される。オーストラリアのPCB廃棄物の多くは保管あるいは分解処理されている。しかしながら、環境内に分布しているPCB残留物については、相当の懸念が残る。PCBsの輸出入は特別な場合を除いて禁止されている。最近では、南太平洋地域のPCBsやその他の有害な化学物質が回収され、オーストラリアに運搬されるように、商業的な取引が提案された。集められた化学物質はオーストラリアのクイーンズランドにある“BCD”プラントで処理されることになる。食物、母乳、その他の環境媒体内に含まれるPCBsの監視は、様々な機関によって行われている。しかしながら、自然環境の監視は手薄で、一ヶ所での長期間に渡る監視計画はない。このことは、質の高い監視と報告が、海洋環境(特に沿岸地域)の保護の前提であることを考えると、悔やまれることである。


ユーチェン事件から24年―台湾のPCB問題の現状

黄淑徳
台湾主婦連盟(台北,台湾)

PCBに汚染された米油を摂取した人々が深刻な被害を被ったユーチェン事件は、1978年から1979年にかけて、台湾の中部で発生した。1968年に日本でおこったカネミ油症事件と、同種の油精製機がユーチェン事件でも、原因と同定されている。数十年に及ぶ追跡調査によって、被害者とその子どもの健康に悪影響が出ていることが確認されている。政府は問題への対処として、規制を作るために必要なステップを段階的に踏んできた。80年代に盛んだった船の解体や金属スクラップの加工工業は、中国や他のアジアの国々へ移った。国内の、たとえばアージェン河やダファ工業公園などの地域で、PCBに関連した有害廃棄物の集積場のいくつかが同定され、対応策が実行されている。魚に生態系を通じて集積したPCBsの調査では、台湾南部のほうが北部よりも汚染されていることが判明した。これは、文中で言及した工業と関連がある。また、魚のPCBs集積の量は減少傾向にある。近年では、人間の胎盤と母乳に含まれるPCBsとダイオキシンも調査・分析されている。台湾沿海の海洋哺乳類のPCBs濃度とTEQsはフィリピン、ブリティッシュ・コロンビア、フロリダの沿岸と似た状況であった。このことは、PCBsの使用禁止が台湾においてPCBsの全体的な量を減少させたことを示す証拠である。しかし、ゴミ焼却施設の稼動は、この地域と地域の住民にとって、新たな脅威となっている。



マレーシアにおけるPCBsの現状


ハティージャ・ハシム
研究員
ペナン消費者協会

1998年の6月に、マレーシアへのPCBsの輸入は禁止された。しかし、それ以前に輸入、あるいは製造された製品はPCBsを含んでいる。また、国内のPCBs使用は、通常違う名前のもとに隠れているのでわかりにくいものの、大きな規模で行われていると考えられる。

固形廃棄物(PCBsを含有する製品や機器によって構成され得る)は、埋め立てによってそのほとんどが処理されている。また、マレーシアでは金属スクラップを機器や家電製品から回収するのが慣習になっており、商業的価値のある金属は廃棄物から取り除かれる。一方で、PCBsを含むかもしれない廃棄物は埋め立て地に捨てられているという現状がある。

マレーシアでPCBs廃棄物を扱っている処理プラントは、工業廃棄物を扱うものである。また、残念なことに、PCBsを規制する法は、工業廃棄物を対象としたものしか存在しないというのが現状である。

マレーシアでPCBs汚染の証拠が確認されたのは1985年にさかのぼる。ペナン島付近の海底から採取された貝についての検査が行われ、それらの貝が400−600 ppbのPCBsを含むことが示された。検出されたPCBsの量は、Food and Drug Authority(FDA)が設定した許容量の300 ppbを超えていた。

1992年にマレー半島の25の河川で行われた、PCBs残留物に関する検査では、工業地域や人口の稠密な地域を流れる河川において、汚染がより進んでいることが明らかになった。これらの河川では、1リットルあたり0.9−2.1ミリグラムものPCBsが検出されている。これは、Proposed Interim National Quality Standards for Malaysiaで定められた、1リットルあたり0.044ミリグラムという基準を超過する汚染レベルである。

1998年ならびに1999年に、マレーシア沿岸で集められたgreen musselのサンプルの検査で、PCBsが検出されている。Pasir Puteh Johor Bahruのサンプルが最も高い値のPCBsを含有していた。サンプルが集められた周辺での人間活動が、PCBs汚染に寄与していることが調査によって示唆されている。

以上の状況をふまえて、マレーシアの環境にPCBsが存在することを示す、十分な証拠があるということができる。よって、政府と消費者は即座に協同して努力し、汚染の芽を摘んでいく必要がある。有害な家庭ゴミの無差別廃棄という問題に対処して行かなければならない。法的規制の発効が、PCBsやPCBs及びダイオキシンを発生させる可能性のある物質のゴミ集積場への廃棄を防ぐためには不可欠である。ゴミの分別は全ての家庭で推進されなければならない。また、マレーシアには相当な量のPCBsが存在すると考えられるが、それらが安全に廃棄されるように、政府は国内のPCBsの量を把握する必要がある。


PCBに関する日本からの報告

日本子孫基金
新居田真美

-要旨-
日本では、1968年にカネミ油症事件が起こりました。PCBが米ぬか油に混入し、汚染した油を食べた人たちに、被害が起こったのです。後に、PCBに含まれていたダイオキシンの一種フランが原因であることが分かったものの、当時は、この事件をきっかけに、PCBの持つ毒性面に注目が集まりました。1972年にはPCBの製造禁止、1974年には、化学物質の審査及び製造に関する法律が制定・施行され、PCBの製造・輸入・新たな使用が禁止されました。
1974年の法律で、全てのPCBの使用が禁止されたわけではなく、例外として、禁止以前に安定器など閉鎖系で使われている機器に関しては、その使用が認められました。そのため、使用が終わり、廃棄物となったときに紛失してしまうケースが相次いでいます。長い年月の間に、保管者が変わる中で、保管中のものが不明になる事例も起こっています。
このように、保管のリスクは高いため、一刻も早く処理を進める必要があります。ところが、日本では、PCBを処理した例が2例しか存在しません。処理施設建設に対する住民の反対運動が強く、施設を建設することができなかったのです。日本国内で58,787トン生産されたPCBのうち約5万トンほどが、未だ、手つかずなのです。
長い年月が経過し、多くの人々が、PCBの問題を忘れていましたが、近年、また、PCBが社会的な関心を集めました。それは、PCBを含む蛍光灯安定器が、1990年代、学校で破裂し、生徒が頭にPCBを被るという事故が数件起こったからです。こうして、ようやく日本でもPCB対策に力を入れ始めました。2001年に成立したPCB特別措置法の中では、5年以内にPCB処理施設を作り、15年以内に処理を完了することが決められています。2002年にはストックホルム条約に締結しました。問題となっていた処理施設に関しても、北九州市に広域の処理施設が建設されることが決まりました。
政府の対策は進みつつありますが、膨大なPCB廃棄物を処理するためには、さらなる処理施設の建設、紛失の防止が必要です。そのためには市民の協力が必要です。私たち、日本子孫基金では、今後も市民の関心を高める活動を行っていきます。



中国におけるPCB汚染

陶克勤
上海市普陀区環境観測所

要約
このレポートでは、PCB汚染に関する3つの調査結果を紹介します。

  1. 環境を汚染するコンデンサの保管
  2. ソングハ川のPCB含有量
  3. チベットのナガワイ丘陵地域での汚染状況

上記に関するデータは、はっきりとPCB廃棄物によって環境が汚染されているという事を示しています。またこのレポートは、PCB汚染の脅威を防止するために、当局がとるべき方策を示唆しています。


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